潮風に吹かれながら、ダイナミックな嵯峨渓をすぐそこに眺める。

「宮戸島の南の先にある嵯峨渓は日本三大渓のひとつであります。嵯峨渓の “嵯峨” は、京都の嵯峨野からきているもの。後醍醐天皇の皇子である護良親王がこの地に隠れ住んだ際に『嵯峨野のように美しい!』とおっしゃったことから、この名がついたそうであります」

地元の人から聞く土地の話は、どうしてこうも面白く、記憶に残るのか。阿部さんは次々と現れる変わった形の岩を、その名前と共に教えてくれた。

凝灰岩が波風によって浸食され、屏風のようにうねっている「屏風岩」。岩肌を見れば、そこにしがみつくようにして松の木が根を下ろしているのがよく分かる。

「これは屏風岩。屏風のように波打つ岩が続いているでしょう。荒波や強風で浸食されて、こうした不思議な形になるんです。ほら、白い岩肌がきれいでしょう」

そう解説しながら巧みに船を操縦し、岩のすぐ近くまで船体を寄せる。その岩は凝灰岩といって、火山灰が凝結したもの。その岩肌は白く、きめ細かで、午前中の光に照らされて輝いている。「こんなに間近で見れるなんて!」と驚くルーカスさん。

「昨日、陸から見ていた風景とは大違い。松の木の生え方もよくわかる。海から見るとこんなふうなんだね」

絶壁の上に海鵜が。

阿部さんは船長歴20年。岩の名前だけでなく、そこに生えている植物や、岩場に暮らす鳥の名もすらすらと出てくる。ツアーの最後に阿部さんは、船から見える小さな社について教えてくれた。

「あれは医王寺薬師堂といって、この島の大切な場所。かつて、狩りが好きだった政宗公がこの山で鹿を殺して老僧に叱られるということがあったそうです。それに逆らって鹿を煮たところ、どうやっても肉が煮えなかった。さらに政宗公がその時着ていた衣が数日経つと灰と化してしまった。それで山の神の力を信じた政宗公は、自分の目を治してもらうため山に通うようになり、この地に薬師堂を建てたのです」

その伝説を真剣な眼差しで聞くルーカスさん。「後で薬師堂に行ってみようよ。伊達政宗のストーリーが気になるし、旅は冒険だからね」

松島は海苔の生産地としても有名。海苔の養殖をする船とも多くすれ違った。

PROFILE

ルーカス B.B.
アメリカ生まれ。1993年より日本在住。雑誌『PAPERSKY』をはじめ、さまざまなメディア、イベントを企画する「ニーハイメディア・ジャパン」代表。自転車で日本の地方を旅する「PAPERSKY Tour de Nippon」を主催する。


●情報は、2019年1月現在のものです。
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Photo:Norio Kidera Text:Yuka Uchida