森田監督と言えば、当時から演技指導が厳しいことで知られていた。2011年に監督が亡くなったとき、ゆり子さんは、「いつか褒められたいと思って、ここまで頑張ってきたのに」と無念でたまらなかったという。

「でも、そうやって満足できないから、俳優を続けてこられたのかな、とも思いますね。俳優って、一度演じてしまうと、もう後戻りができないんです。いくら自分の演技に満足がいかなくても監督にOKを出されたら、『もう一回やらせてください』とは言えない。だから、ずっと『この反省は次にいかそう』と思いながら、今に至るというか……(苦笑)」

 華やかに見える俳優業も、実際の現場は過酷である。キャリアがあろうとなかろうと、チームの中で、一つの役を与えられたら、それを全うしなければならない。

「でも、まったくお芝居のイロハも知らなかった私でも、最初から、〝こんなに面白い仕事はないな〞って思いました。同時に、こんなに恐ろしい仕事もないなってこともすぐわかりましたけど(苦笑)。映画で、カチンコが鳴ったときの緊張感は、水泳でスタート台に立って、水に飛び込むときの感じとよく似ています。

あとは、撮影がチームプレーで進んでいく分、現場はすごく体育会系なんです。それぞれ自分の役割が決まっていて、誰もが、〝正々堂々と〞〝粛々と〞役割を全うしていく。そこは、水泳をやりながら身体に叩き込まれたスポーツマンシップにすごく通じるものがありました」
 

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PROFILE

石田ゆり子
1969年生まれ。東京都出身。'88年、テレビドラマ『海の群星』(NHK)でデビュー。以後、ドラマ・映画・舞台・執筆活動など多岐にわたり活躍する。映画『北の零年』(05年)で第29回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近年の主な出演作は、映画「悼む人」(15年)、『僕だけがいない街』(16年)、ドラマ『MOZU』(14年/TBS)、『コントレール~罪と恋~』(16年 / NHK)。映画『もののけ姫』(97年)、『コクリコ坂から』(11年)などスタジオジブリ作品では声優も務める。2016年には、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)に出演した。

 
●情報は、FRaU2016年12月号発売時点のものです。
Photos:Takashi Honma Styling:Miho Okabe Hair&Make-up:Mizue Okano Interview:Yoko Kikuchi