何かをやりたい気持ち
引っ込み思案な気持ち
真逆の気持ちをいつも持ってる

撮影風景を見ていても思ったのだが、長澤さんは、モノ作りの現場に、とても気持ちよく馴染む。部屋に響くシャッター音と、語らずしてコミュニケーションを取りながら、自然に、求められる情感を、表情に出す。反応が速くて、一瞬一瞬の変化の中に、ちゃんと、彼女らしい意味合いを乗せていく。衣裳にしても、その衣裳の持つ意図を汲んで、とてもキレイなシルエットを生み出してゆく。服にも感情があるとすれば、彼女に着られた服は、さぞかし幸せなことだろう。
そんな想像をしてしまうほど、彼女がいる空間には、雑味のない、フレッシュな空気やすっきりとしたリズムが生まれるのである。
「アハハ。よく、先輩の女優さんたちには、『まさみはすくすく育ったね』って言われます。10代の頃に、ミニスカートとか穿いていると、『いいね、健康的でスカッとする!』とか言われたこともある(笑)。私自身は、スカッと明るい性格ではないのに、なんでそう見えるんだと、最初の頃は不思議でした。でもこればかりは、健康的な体に産んでくれた両親に感謝ですね。
女優をやって最初に驚いたのが、演じた役の影響で、自分の知らない自分が認知されている感覚を初めて知ったときで、『へぇっ!』って驚きましたね」
彼女が撮影や収録や稽古の “現場” が好きなことはよくわかったけれど、話を聞くにつけ、女優にあるまじきその自己顕示欲の低さに、驚かされたりもする。撮影のときも、いわゆる “ドヤ顔” 的な表情が一つもなく、カッコよくて美しい、非の打ちどころのないハンサムウーマンなのに、どこか寂しげなところもあって。それが妙にそそられる。長澤まさみという人を、もっともっと知りたくなる。でも、彼女は言うのだ。彼女自身が一番、自分のことがわかっていないのだから、と。
「昨日親友と話していて、ちょうど『私たちって何なんだろうね』って話になったんです。彼女と私は、出たがりのようで、本当は出たがりじゃなくて、でも何かはしていたい。そんな性格が似ていて……。それで、2時間ぐらい話して出た結論が、『多重人格なんじゃない? 私たちって』ってことだった(笑)。
出たがりなところも、あるにはあるんですよ。でも、いざ出てみると今度は、『なんで私みたいな人間が、こんなことやってるんだろう?』って引け目を感じるような、引っ込み思案な面もあって。真逆の感情をいつも持っていて、自分でも謎なんです」
その友達との会話を思い出している長澤さんの表情が、少女のようにピュアで、とてもリラックスしていた。たぶん、自分と似たその友達のことにあれこれと思いをめぐらすことが楽しいのだろう。自分のことよりも、好きな友人のことをあれこれ考える方がウキウキする。彼女はそんな人なのだ。
「人見知りではあるけれど、私は、人とどんどん関わっていくことが、人生を豊かにすることだと思う。でも、どんなに仲がいい友達でも、仕事の愚痴を言ったりはしないですね。私、基本的には秘密主義なんだと思います。とくに仕事の相談事は、マネージャーさん以外にはしないです。自分のことを話すよりも、人の話を聞いている方が、刺激的だし面白いから」