シャンソンに退廃的な味付けをして美しさにまで昇華させた銀巴里

秋のコンサートは、「美輪明宏の世界」というタイトルです。銀巴里時代のアトモスフィアを再現しようという試みで、私が元祖シンガーソングライターになる前、好きで歌っていたシャンソンとおしゃべりだけの構成にする予定。
銀巴里といえば、あの岡本太郎さんもシャンソンを歌いに来ていた場所です。岡本さんは、フランスに長くいらして、フランス語が達者だから「パリの屋根の下」なんかをすごく上手にお歌いになって。あの頃の雰囲気を、今の人たちは知らないでしょう? でも、どこかでそれを欲しているというのがわかるので、私が再現することにしたのです。
あの時代の空気が見直されるきっかけになったのが、私が2014年の紅白歌合戦で歌った「愛の讃歌」でした。あの歌唱がきっかけで、銀巴里の時代のことをもっと知りたいとか、実際に触れてみたいとか、いろんな反響があったのです。今までお付き合いのなかった大物芸能人の方から、「是非お会いして、お話を伺いたい」なんてラブコールもありました。
シャンソンは、今はもうパリでも片隅に追いやられているようだし、それを引っ張り出して、受け入れられる土壌は、もしかしたら日本の方があるのかもしれない。実際、今の日本の大衆音楽を耳にするにつけ、感度のいい人たちは、もっと綺麗事じゃない、気取りのない音楽を求めているのじゃないかと思ったりします。
銀巴里が賑わう前まで、世間でシャンソンは、随分気取った感じの音楽だと思われていました。なかにし礼さんが、エディット・ピアフの「愛する権利」という曲の私の訳を、とても褒めてくださったことがあります。「原詩よりも素晴らしい」と。人が人を愛することは罪ではないし悪でもないし、女と女、男と男、老人と若者、異国人同士が愛し合っても、人間同士が愛し合うことに変わりはない、という内容ですが、確かに、私の訳は、原詩にちょっとだけ筆を足しています。
越路吹雪さんの歌った「愛の讃歌」もレコーディングまで一日しかなかったらしくて、急遽、原詩の内容を無視して恋の歌にしてしまったそうです。日本にシャンソンが入ったのは、すべて宝塚経由で、娼婦の歌もすべて “清く正しく美しく” になってしまった。私の秋のコンサートは、ですからそのシャンソンを、いかに退廃的な味付けをして、美しさにまで昇華させるかがテーマ。私が青春時代を過ごした退廃美に包まれた空気感がどのようなものだったか。それを、是非肌で感じていただきたいと思っています。
PROFILE
美輪明宏 Akihiro Miwa
長崎県長崎市出身。シンガーソングライター、俳優、演出家。7月末までは「ロマンティック音楽会~生きる~」(http:o-miwa.co.jp/category/recital/) で全国を回り、9月からは「美輪明宏の世界~シャンソンとおしゃべり」で美輪さんが愛した銀巴里時代の空気を再現。9月8日~24日東京芸術劇場プレイハウス(http:www.parco-play.com/)
●情報は、FRaU2017年7月号発売時点のものです。
Photo:Yoshinori Midou Interview:Yoko Kikuchi