2019.03.30
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2020年、インターネットはどうなる? 大企業独占の問題点と未来

SXSWで見えてきたこと
池田 純一 プロフィール

大企業の独占を許さない

このようにウォーレンの主眼は、必ずしもFacebookなどのIT業界だけではなく、より広範に、大企業の独占そのものに向けられている。

背景にあるのは、Facebook、Amazon、Googleの無限定の業容拡大の現状は、19世紀末に、ロックフェラー家によってスタンダードオイルが設立されたり、カーネギーやモルガンによって鉄鋼業や鉄道業が独占されたりした時代と変わらないという認識だ。現代はまさに19世紀末に「元祖プログレッシブ」が政治運動として登場した時代とうりふたつなのだ。

19世紀後半は、機械や化石エネルギーを利用した内燃機関などの産業技術が広範に社会に浸透していった時代だが、そのさなかにあった当時の人びとからすれば、一体、何が起こっているのかわからなかった。

 

産業革命以前と変わらずに利潤拡大の論理にしたがって企業経営がなされていただけなのだが、気がつけば、全米にまたがるほどの巨大な独占企業体=トラストがいくつも生まれてしまった。

その結果生じた社会的な不都合や不正義を正すために採られた措置が、1890年制定のシャーマン法――クレイマン法(1914年制定)とともに「反トラスト法」の中核をなす――による巨大企業の分割、という荒療治だった。

そして、現在も似たような状況にあるというのが、ウォーレンの理解であり、彼女だけでなく多くのインターネット法の研究者たちの立場でもある。

たとえば、サイバー法の第一人者であるティム・ウーが近著“The Curse of Bigness”で議論した「巨大さの呪い」がまさにそれだ。

あるいは、“Amazon’s Antitrust Paradox”という論文で、Amazonを裁くためにはかつてあったような「構造規制」中心の反トラスト政策に回帰する必要があると説き、一躍全米で注目された若手の法律研究者リナ・カーンの立場にも近い。ウォーレンに限らず、多くの法学者が20世紀初頭の歴史に学ぼうとしている。

彼らの議論の根底にあるのは、よくわからないうちに情報技術が世界を席巻し、日常生活を覆い尽くし、いつしか名だたるBig4の商品/サービスを、アメリカ人に限らず世界中の人びとが利用することになっているが、それで本当にいいのか?という素朴な疑問だ。この素朴な疑問に応える手かがりが19世紀末から20世紀初頭の「世紀の変わり目」にあるという理解だ。

ここで1890年のシャーマン法の導入について、一つ留意すべきことがある。それは、この法律が制定された当時は、近代的な経済学がようやく発展の途についたところだったことだ。

当時はまだ、現在のミクロ経済学の教科書にあるような「自然独占」の理論など存在しなかった。つまり、反トラスト法の導入は、あくまでもその当時までの法の伝統の中で「社会正義」を達成するために導入されたということだ。

経済的な合理性や妥当性の基準などに頼るのではなく、素朴に、大企業による「横暴」を社会的悪とみなしてのことだった。

だから、ウォーレンらプログレッシブと言われる人たちの主張は、動機としては、19世紀後半と同じ、ある種の「義憤」に駆られながら、だが、その議論の理由付けにおいては、現代経済学の成果を活用し、いわばハイブリッドな態度をとっていることになる。つまり、「心根は伝統的、道具は現代的」ということだ。

このようにウォーレンの主張は、あくまでも企業活動における市場の有用性を認めながら、そのメカニズムを歪めないように調整するのが政府の役目であるというものだ。

政府にはきちんとやるべきことがある。「自由」を「野放図」と取り違えさせてはいけない、という立場だ。

その意味で、彼女は、市場の機能を信じる「キャピタリスト」である。その彼女の志向性は、法学者としての専門が破産法や商法であることからもよくわかる。

アメリカの破産法は、市場における経済活動の中で躓いてしまった企業の処置を巡るものであり、そこにある発想は破産した企業の措置を可能な限り迅速かつ公正に進めることで、当の破産企業の市場への影響を最小限に留めるようにすることだ。同時に、可能であれば破産者に再出発のチャンスを与える。

つまり、彼女の立場は、いかにして市場が十全に機能するよう保つのか、つまり個々の起業家/経営者を無用に萎縮させずにインセンティブがきちんと機能するような市場環境を保つにはどうすればよいか、監督する立場からのものだ(このあたりの発想の雛形にはSEC(証券取引委員会)があると思われる)。

その意味で、彼女は紛れもなく「キャピタリスト」なのである。若い頃の彼女がオクラホマ出身らしく共和党支持者だったというのも理解できる。

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