「過労死」は「仕事が原因の死」
「過労死」というと、皆さん「長時間労働による死」をイメージされると思います。けれども実際は、必ずしもそうとは限りません。私は過労死の定義をもう少し広げて、「仕事が原因で亡くなってしまった人」であるととらえています。そこには仕事のストレスからうつ病を発症し、死を選んでしまった「過労自死」も含まれます。
仮に一切残業がない職場にいても、定時勤務の中でものすごく忙しく働かされたり、ストレスフルな環境で仕事をしていたりすると、人は心身のバランスを崩しやすくなります。もちろんいじめ等もそうです。また、「これだけの成果を出さないとお前の首が飛ぶぞ」などと脅すようなことを言われても、精神的に大きな負荷がかかります。
朝日新聞記者の牧内昇平さんは、長年過労死の現場を取材し続けてきた。『過労死―その仕事、命よりも大切ですか?』は多くの過労死の実例や、それを防ぐためにどうしたらいいのかをまとめた一冊だ。特に若者の過労死について、前回は悲しい実例とともに「過労死とは他人事ではない」ということをお伝えした。今回は、それがどうしたら過労死を防ぐことができるのかを牧内さんにまとめてもらった。
「自分は大丈夫」ではない
2012年から過労死の取材を進めていったなかで、いくつか見えてきたポイントがあります。まず大前提となるのは、「自分は大丈夫」という思い込みは危険だということ。一般的に過労死は、非常に真面目で、自ら仕事を抱え込んでしまうタイプの人がなるものというイメージがあります。もちろんそういう人もいますが、全員が全員ではありません。
過労死した人が必ずしも「仕事一筋」とは限りません。興味がたくさんあって、たとえば今までは定時で上がってツーリングに行っていたような人が、たまたま忙しくなって倒れたことも。会社でトラブルがあり、わずか数ヵ月の間に心を病んで亡くなってしまったケースもありました。
社交的な人、そうではない人。役職に就いている人、会社に入ったばかりの人。お酒を飲む人、あまり飲まない人……。労働組合で役員を務めた経験があり、サービス残業はいけない等、働く人の権利についてよく知っている人も倒れています。「自分は大丈夫」ということは絶対にないのです。
過労死を避けるためにまずやっておきたいのは、自分の労働時間を記録し、現在どれくらい働いているかを数字で「見える化」しておくことです。サービス残業のようにタイムカードに印字されない時間も、しっかり手帳に書いておく。
一般的に「月80時間超の残業」が、いわゆる「過労死ライン」だとされています。けれど国の基準を読むと、残業が月45時間を超えると徐々に仕事と病気との関連性が高まる、とあります。つまり45時間でイエローカードなのです。残業が月に100時間とか150時間になったら、いつ倒れてもおかしくないレベルだと思っていてください。