「どうしても“母”になりたい…」卵子凍結に揺れる女たち
連載「婚難の時代」第4回生理のたびに「また卵子が減った」
2016年12月25日、世間がクリスマスムードに染まる日曜日の夜。当時39歳だった独身の森田久美は大阪市の産婦人科に向かっていた。卵子を凍結保存するための手術を2日後に控え、排卵を促す注射を打ちに行く。注射は連続8日目。薬の影響で卵巣が腫れ、スカートがきつい。「こんな日に何してんのやろ」。涙がにじんだ。
卵子を人工的に採取して凍結保存する技術への関心が高まっている。がん治療などで生殖機能が低下する場合の緊急避難的手法として始まったが、報道などの影響で数年前から「卵子の老化」が認識されるようになり、健康な未婚女性も将来に備えて利用し始めた。
久美が卵子凍結を知ったのは38歳の時。その2年ほど前に結婚相談所に入会したが、出会いに恵まれず焦りを感じた。「親を喜ばせたい。子どもを産まないと」。30代半ばで突如生まれた使命感は、日増しに強くなっていた。
こんな方法で子どもが産めるのだろうかーー。正直、信じられない。それでも生理のたびに「また卵子が減った」と焦る日々に耐えられなくなっていた。「ちょっとは楽になれるかも」。40歳を目前に思い切った。
迎えた12月27日。手術室では「もう通院しなくていい」という解放感と不安、奇妙な恥ずかしさが入り交じり、複雑な感情がこみ上げた。麻酔を打たれ約15分で手術は終了。その日のうちに帰宅した。

採取できた卵子は12個。液体窒素で満たされたタンクに入れて保管する。期限は2年と決めた。保険が適用されないため手術費と保管料などを合わせて約60万円かかったが、気持ちは少し楽になった。「自分は年を取るけど、卵子12個分は時が止まった」
安心感を得た一方、予想外だったこともある。手術前の連日の通院と注射の大変さだ。身体的にも時間的にも負担が大きく「結婚相手を探すことに労力を使う方がいい。後悔はないけど、もういいかな」