この騒動を見て、インターネット黎明時に起こった「早い者勝ち」にまつわるドメイン名を巡るトラブルのことを思い出しました。
無関係の第三者が、総合スーパーのイトーヨーカ堂に先行してitoyokado.co.jp のドメインを取得した事件や、信販会社のJACCSに先行してjaccs.co.jp のドメインを取得した事件などが有名です。
被害者を救済するため、日本国内においては2001年から工業所有権仲裁センター(現・日本知的財産仲裁センター)がドメイン名を正当な権利者に移転するための裁定を開始しました。
先ほど紹介した2つの事件については、最終的には、正当な権利者側がドメイン名を取り戻しています(ちなみに、「.com」「.net」などの国際的なドメイン名については、世界知的所有権機関(WIPO)の仲裁調停センターがその紛争処理にあたっています)。
なお、不正競争防止法も2001年に改正され、ドメイン名を不正に登録・使用する行為も「不正競争行為」に含まれるようになりました。
新元号にまつわるドメイン名については、先ほど紹介した2つの事件とは事情も異なり、基本的には、やはり「早い者勝ち」となります。
すでに勃発した争奪戦の影響により、「reiwa」単独でのドメイン名の登録は困難となりましたが、「reiwa」の文字を含むドメイン名については登録の可能性がまだあります。「令和」を含む名称でビジネスを始められる方は、他人が触手を伸ばす前に、商標登録出願や商号登記と並行して、いち早くドメイン名の登録を進めるべきでしょう。
大切なのはブランド戦略
2017年に私が上梓した『楽しく学べる「知財」入門』(講談社現代新書)では、著作物、商標、特許、意匠といった各種の知的財産を多角的・多面的に俯瞰しましたが、今回の記事では、「元号」という具体例に踏み込んで、「令和」にどこまで便乗できるのかについて、商標、商号、ドメイン名、それぞれの観点から分析を行いました。
ここで挙げた商標、商号、ドメイン名は、いずれも「ブランド戦略」と非常に関連が深いものです。
「令和」にちなんだ商標・商号・ドメイン名を、いち早く登録・使用することで、それにあやかりたいという気持ちは良くわかります。ですが、ビジネスを進める上では、それだけでは十分ではなく、そのブランド価値をどう高めていくかの検討を進めるべきです。
たとえば、元号を冠した大学は複数存在しており、幕末から「慶應」「明治」「大正」「昭和」「平成」の順に見ていくと、「慶應義塾大学」「明治大学」「大正大学」「昭和大学」「帝京平成大学」といった大学名が挙げられます。
各大学にそれぞれ独自のイメージがあり、それがその元号の持つイメージと一致していないことは説明するまでもないでしょう。
元号を冠することで「覚えてもらいやすくなる」「馴染みやすくなる」という効果があることは否定しませんが、それを効果的なブランド戦略に結び付けていくことが極めて重要です。
今後生まれ出てくるであろう「令和」を冠する企業や団体に関わる皆様には、新時代にふさわしいブランド戦略を構築・展開していただければと思います。