「ベーシックインカム」という妖怪
ベーシックインカムという妖怪が世界に出没している。
ベーシックインカムとは一言でいうと、「すべての人に無条件で一定の額のお金を給付する」制度のことだ。
そんな「うまい話」があるわけないと思う人もいるだろう。実際、ごくごく低額であればともかく、そのお金だけで生活できるほどの額を給付するベーシックインカムは世界のどこを探しても持続的な形では導入されていない。
しかしここ数年、この荒唐無稽にも思えるアイデアが耳目を集めるようになってきた。
スイスで2016年6月にベーシックインカム導入の可否をめぐって国民投票が行われ、同8月にはフィンランド政府が2年間のベーシックインカムの給付実験を行うことを発表。
スイス、フィンランドいずれの場合も「ベーシックインカムの給付が始まる」という誤報を英字紙が打ったこともあって、世界中をニュースが駆け巡った。
翌2017年5月には、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグがBIに言及したり、昨年9月には、国連事務総長のアントニオ・グレーテスが国連総会での演説でベーシックインカムを支持するなどのニュースが続いた。
昨年イタリアで政権の座についた「五つ星運動」も長年ベーシックインカムを公約に掲げているが、年末にはベーシックインカムの実施を予算化したことがニュースとなった。
インドでは今春に総選挙が行われたが、選挙前には、政権与党と最大野党がそれぞれ、ベーシックインカムについての公約を発表していた。
フィンランド政府は同政府が昨年末まで2年間にわたって実施したというベーシックインカムの給付実験の暫定的な結果を発表した。
また2月に入って、先述のフィンランドでの実験の最初の暫定的な分析結果が公表された。
(あらぬ誤解を避けるためにここで注釈をいれておくと、上記イタリアとインドのケースはベーシックインカムと当事者の政治家たちは言い、メディアも追随しているが、そこで議論されている政策はベーシックインカムではない。次回以降で詳述。)
いったい何故、一見夢物語のようにも思えるアイデアについて、世界のあちこちでニュースとなるような出来事が起こっているのだろうか。