「消えた留学生」問題でベトナム人青年が味わった絶望
知られざる「儲けのカラクリ」“偽装留学生”が就職口を得る「裏技」
“偽装留学生”の受け入れで、バブルに沸く日本語学校業界──。出稼ぎ目的の留学生たちの多くは、日本語学校の2年間では母国で背負った借金が返済しきれない。そこで彼らは、専門学校や大学へ“進学”して出稼ぎを続ける。
一方、日本語学校の留学生が日本で就職するケースは、以前であれば珍しかった。留学生が就職する際、9割以上は「技術・人文知識・国際業務」という在留資格(通称・技人国ビザ)を得る。日本の大学や専門学校で専攻した分野に近い専門職に就く留学生を主な対象にしたビザである。
ただし、海外の大卒という学歴があれば、技人国ビザが発給されるケースがある。とりわけ最近は母国での学歴を用い、専門学校や大学を経ずに日本語学校から直接、日本で就職する留学生が増えている。安倍晋三政権が留学生の就職率アップを「成長戦略」に掲げている影響だ。
就職斡旋業者に手数料を払えば、日本語が不自由な“偽装留学生”であろうと就職先は見つかる。業者が「裏ワザ」を使ってのことだ。たとえば、人材派遣会社などで「通訳」として働くと見せかけ、留学生に技人国ビザを取得させる。そしてビザが下りると、工場などで単純労働に就かせる。技人国ビザで単純労働すれば違法だが、そうした“偽装就職”も横行している。

「底辺労働者」から手数料を搾取するカラクリ
業者は留学生から40万円程度の手数料を受け取る。留学生たちは留学斡旋ブローカーや日本語学校、人手不足の企業から都合よく利用された後、今度は“偽装就職”によってさらに多額の手数料を巻き上げられるのだ。そして日本語学校当時と同じく、底辺労働を続けていくことになる。
私が取材で出会い、失意のうちに母国ベトナムに帰国することになった留学生のタン君(25歳)も日本での就職を望んでいた。彼はベトナムで大学を出ておらず、技人国ビザを取得するための資格がなかった。そんな彼に、アルバイト先のうどん店は「就職できる」と持ちかけてきたのだが、技人国ビザではなく、新在留資格「特定技能」の取得を想定していた可能性が高い。
2018年末の国会で改正入管法が成立し、「特定技能」という在留資格の創設が決まった。この資格のもと、今年度から外国人労働者の受け入れが拡大する。政府が人手不足と判断した14業種で、今後5年間で最大34万5000人の受け入れが見込まれる。就労期間は最長5年だ。
「特定技能」で受け入れ可能な職種には、うどん店のような外食産業も含まれる。うどん店は改正入管法の成立を受け、タン君のビザを「留学」から「特定技能」へと切り替え、引き続き働かせようとしたのだろう。