2019.06.07
# 労働者 # 外国人 # 留学生

「消えた留学生」問題でベトナム人青年が味わった絶望

知られざる「儲けのカラクリ」
出井 康博 プロフィール

パスポートや在留カードを取り上げる人権侵害

タン君は来日時、在留期間「1年3ヵ月」の留学ビザを得ていた。在留期限の2018年10月を前に、ビザを更新しなければならない。

日本語学校にとっては、ビザ更新は学費を徴収するチャンスとなる。“偽装留学生”は1年分の学費を一度に払う余裕がないため、たいていの学校は分納を認めている。それでも学費の滞納は後を絶たない。

そこで学校側はビザ更新時、荒技に出る。入管当局に提出するため預かったパスポートや在留カードをそのまま取り上げ、留学生が学費を支払うまで返さないのだ。

そんな人権侵害が全国各地の日本語学校で横行している。

授業への出席率が低い留学生を捕まえ、空港へ連行して強制帰国させるようなケースもある。出席率が低い留学生が増えると、日本語学校は入管当局から睨まれ、翌年度の新入生に対するビザ審査が厳しくなる。そうなると受け入れる留学生が減り、自らのビジネスに悪影響が出る。そのため素行の悪い留学生は、さっさと強制帰国させるのだ。

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やりたい放題の日本語学校

タン君の日本語学校も、悪徳な学校の典型だった。

ビザの更新時には、未払いだった後期分の学費に「6万円」を上乗せして払うよう要求まであった。ビザを更新すれば、日本語学校を卒業する翌月の4月まで在留期限が延びる。その1ヵ月分が「6万円」の理由だった。タン君のクラスメイトには、学校に言われるまま30万円を支払った留学生もいたという。

もちろん、いくら在留期限が卒業後まで残っていようと、留学生には学校卒業後の学費まで支払う義務などない。だが、支払いを拒めばビザの更新手続きが取られない。

たとえ理不尽な要求を突きつけられても、留学生たちには声を上げる手段もない。「週28時間以内」を超え、違法就労しているという後ろめたさも影響してのことだ。そんな弱い立場につけ込み、やりたい放題なのが日本語学校の実態なのである。

「現代の奴隷労働者」の声なき叫び

「(ベトナムで)家族と一緒に暮らしたいです」

食事を一緒に取っていて、タン君がそう言って涙を流したことがあった。日本語学校で食い物になり、アルバイト先の企業には都合よく利用され、その挙げ句、「就職」問題で翻弄された。その悔しさも涙に混じっていたのだろう。

大学への進学を蹴ったことで、少なくともベトナムの家族のもとに戻る願いはかなった。幸いタン君には、母国で背負った借金はほとんど残っていない。日本で必死に働いたおかげである。

 

決してタン君は、「一部」の特殊な留学生というわけではない。日本には今、彼と同じ境遇で苦しみながら、声を上げることできずにいる“偽装留学生”が何万人も存在する。彼らは借金返済と学費の支払いに追われ、私たちの目に触れない場所で奴隷のごとく今夜も働き続けている。

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