――熱河層群のある遼寧省は、中国のなかでは日本と比較的近い地域です。日本でも同様の羽毛の痕跡を持つ恐竜の化石は見つからないのでしょうか?
難しいですが、可能性はゼロではないです。
熱河層群で見られるような保存状態の良い化石を見つける上では、日本の地層はあまり向いているとは言えません。しかし、将来保存状態の良い標本が見つかれば、もしかすると羽毛や体毛、皮膚の痕跡などが観察できるかもしれません。
ちなみにかつての日本は中生代を通じて中国と近い位置関係にあり、特に北陸地方の手取層群と、中国遼寧省の熱河層群は時代が近いこともあって、両者の関係性がよく話題になります。
双方の地層で共通して発見される種類もありますが、熱河層群ではほぼコエルロサウルス類系の獣脚類しか発見されないのに対して、手取層群ではジュラ紀に繁栄したアロサウルス類やメガロサウルス類のグループが発見されるなど、分布に違いが見られます。

――近年、中国ではあちこちの街が画一的で大味な観光地開発をおこなう例が多く見られます。たとえば「唐代の街並みを再現した」と言いつつ、ほとんど歴史考証をおこなわないまま鉄筋性の「伝統建築」が並ぶ観光区域をあちこちの都市に作るようなパターンですね。恐竜の分野でも同様の例があるとか?
そうですね、観光開発の波は恐竜の分野にも影響しています。
江蘇省常州には中国でも有名な「中華恐竜園」があります。この施設は内部に博物館、遊園地を含む非常に大きなテーマパークで、国内でも有名な観光地なのですが、古生物学の教育普及というよりは、アミューズメント要素の強い施設となっているようです。
もともと、常州では恐竜化石は見つかっておらず、、遊園地でオリジナルのキャラクターを使うようにして、一種の「人寄せ」として恐竜を使ったという面白い例です。

――2000年に開業した常州の中華恐竜園は、アミューズメントパークとしてはかなりハイレベルで、人気もあるみたいです。ただ、中国の若手研究者で国際的な知名度も高い邢立達(Xing Lida:シン・リダ。中国地質大学准教授)さんが若いころに同施設でちょっとだけ働いたことがあったそうですが、娯楽的な要素が強すぎるので間もなく退職したという、いわくつきの場所でもありますね。

数年前、パークを運営する常州恐竜園股份有限公司が、国策である一帯一路構想をサポートするということで、中国西部の甘粛省蘭州にもうひとつの恐竜園を作るという「シルクロード文化産業ベルト」の構想を数年前に発表しました(これ自体は甘粛の経済発展や古生物学への関心を高める意味で、大変良い計画だとは思います)。
ただ、蘭州は常州と違って、付近には馬鬃山恐竜動物群や昌馬鳥化石群・河口恐竜動物群などがあり、恐竜化石の宝庫です。
今度新しく作られるという恐竜公園が、これらの産地を上手に活かした施設になるといいのですが、あべこべに化石の産地が乱開発に見舞われることにならないか、懸念もありますね。