東北楽天ゴールデンイーグルスのGMに就任し、球団経営者の立場から昨季最下位に終わったチームの立て直しをはかる石井一久氏と、「プロ野球選手というビジネス」を描いて注目を集める『グラゼニ』原作者・森高夕次氏の対談が実現。今シーズン好調を維持する楽天イーグルス。その強さの一端がプロ野球開幕を前に行われた対談に垣間見えた。(※この対談は2019年1月に収録しました。)
チーム全体をマネージメントしたい
森高 僕は、石井さんが楽天のGMになったというニュースを聞いて、飛び上がって喜んだんですよ。
石井 本当ですか? ありがとうございます。
森高 現在の楽天のスタジアムは、日本ではトップのボールパークだと思います。
石井 昨年末にメジャーのGMが集まるウィンターミーティングに参加させてもらったんですけど、「観覧車のある球場だよね」って、覚えてくださっている方もいて、やっぱり球場に特徴があるのは大事だな、と感じましたね。

森高 新しく4階建ての観戦席もできるんですよね?
石井 7月頃に使用できるようになる予定です。楽天は僕が入る前から、来場者を楽しませるための努力をすごくしてきた球団だと思います。
森高 今後、石井さんが変えていきたいと考えているポイントはありますか?
石井 試合時間を短くしていきたいです。やっぱり人間の集中力は、3〜4時間も持たないと思うので。
森高 例えばサッカーだったら、ハーフタイムを合わせても2時間前後ですよね。
石井 ただ球団経営の面で言うと、サッカーくらい試合がスピーディーになると、お客さんが試合の合間にグッズを買ったり、ご飯を食べたりできなくなっちゃうんですよ。
森高 はいはい(笑)。
石井 そういう試合の合間に楽しめる要素は、サッカーよりプロ野球の方が多いと思うんです。そのかわりスピーディーさでは負けちゃうんで、両立させるのはなかなか難しいですね。
楽天は「戦う集団」をめざす
森高 チームの人選も石井さんが行ったそうですが、まず、平石洋介監督を選ばれた理由はなんでしょうか?
石井 彼はイーグルスが負けている時期も知ってるし、勝っている時期も知ってる。チームの状況を一番早くつかめる人だと思いました。
森高 平石さんはプロ野球で37安打という成績で、ものすごく活躍されていたとは言えない部分が正直あります。それでも監督にまで登りつめるっていうことは、何か持ってるということですよね?
石井 すごくリーダーシップがありますね。早い段階から「このチームにとってベストな監督だな」と感じていました。
森高 コーチングスタッフもすべて、石井さんの選択なんですか?
石井 はい。かなり変えました。
森高 小谷野栄一さんや、ゴメス後藤さんのように、現役を退いて間もない方もいらっしゃいますが…。
石井 僕は、現役を退いたばかりのコーチのほうが、ベテランコーチに勝ることがいっぱいあると思っています。去年まで生のピッチャーの球を打っていたからこそ、選手とより深いところで話せることがある。
森高 なるほど。
石井 例えば「ソフトバンクの千賀滉大投手のフォークはこういう落ち方をするよね」とか、バッターとして肌で感じたことを教えたりね。
森高 伊藤智仁ピッチングコーチは石井さんとヤクルトで一緒でしたね。伊藤さんを選ばれた理由は?
石井 一番は人間性ですね。ヤクルトが最下位になって真中満監督がやめる際に、トモさんは一緒にコーチをやめているんですよ。
森高 ああ、そうでしたね。
石井 潔いというか、それだけ責任を持った行動ができる人はなかなかいませんから。そういう人にチームにいてほしかった。
森高 野村克則コーチと三木肇二軍監督もヤクルト時代の同僚ですね。
石井 楽天はもっと「戦う集団」にならないと強くなっていかないと思うんです。カツノリはバッテリーコーチだけど、ピッチャーのことまで口を出しちゃうくらい勝つことに貪欲だし、三木も野村克也監督の下でやってきて、打って投げるだけじゃ勝てる野球にならないということを理解しています。
森高 野村監督というと、いわゆる「ID野球」ですよね。僕の個人的な印象ですが、ランナーが一、二塁にいる状況では絶対右にしか打たせないとか、勝つための手法を徹底的に突き詰めていたイメージがあります。

石井 野村監督は、勝つためにやるべきことを選手が理解できるよう、口が酸っぱくなるまで言う方でしたね(笑)。ただ、あの時期のヤクルトは選手の側も自分でやるべきことを分かっていた大人な選手が多かったです。いちいち言われてやるのではなく、自分の役目がしっかり分かった選手がそろっていて、その行動がきちんと実を結んでいた。だから強かった。
森高 確かにあの時代のヤクルトって、なんだかんだ言われつつ点を取っていた気がします。
石井 選手たちが役目を果たしていたから、完封されずにきちんと点が取れて、勝てていた。それって、強いチームの特徴ですよね。