米中貿易戦争の激化が「消費増税延期判断」に与える本当の影響
リーマン級は、いたるところに…?米中貿易戦争、日本経済への影響は?
先週のコラムで、これから日本の景気に関する悪い統計数値が出てくると予測したが、ここ一週間で発表された統計をみても、おおよその傾向は変わりないようだ。
5月10日に発表された3月の毎月勤労統計では、「実質賃金」が2015年6月以来の下げ幅となったことが報じられた。これひとつでも景気の悪さを印象付けるが、この数値は、景気動向指数の一致指数を算出する個別系列には指定されていない。
指定されているのは「事業所規模30人以上の季節調整値の所定外労働時間指数(調査産業計)」だ。その数字をみると、3月は95.3と前月比▲2.6の大幅減である。ということは先週に予測した景気動向指数より悪い数字が出るかもしれない。となると、20日に公表されるGDP一次速報も、予想よりさらに悪い数字になることが予想される。
また、海外経済環境もさらに悪くなりつつある。米中貿易戦争の先が見えなくなっているからだ。アメリカは、対中追加関税を25%に引き上げた。それまで米中交渉には楽観的なムードが出ていたが、土壇場で中国が外国企業への技術移転強要を是正する法整備の約束を反故にしたようで、一気に先行きは暗くなった。
筆者の本コラムを含め、いろいろな著作を読んでいただければ、米中貿易戦争は貿易赤字減らしという単なる経済問題ではなく、背景には米国が軍事覇権を保つために技術優位を維持しようとする戦略があることがわかるだろう。今回の米国の姿勢は、その米国技術を盗み取るような中国の行為を許さないという強い意志の表れであり、究極的には中国の国家体制そのものを問題視しているということだ。
米国が怒りを示している中国の行為とは、中国の国家体制に由来するもの。すなわち、①知的財産の収奪、②強制的技術移転、③貿易歪曲的な産業補助金、④国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行である。
なぜ、アメリカがこの4つを問題視していることが明確に分かるかというと、中国とは名指しされていないが、なんと昨年9月の日米共同声明(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000402972.pdf)に、これらを許さないとすることが盛り込まれているからだ。これらの文言は、米交渉担当者が対中戦略としてこれまでも語ってきたものだが、それが公式の外交文書にまで登場していたのだ。
このアメリカの戦略を理解していれば、米中貿易戦争の抜本的な解決にはかなりの時間を要するということは、前から分かりきっていた。その意味で、「米中貿易戦争はどこかで歯止めがかかる」という市場関係者の楽観的な見方は、単なる希望的観測だったと言わざるを得ない。
政治的にみても、来年11月にはアメリカ大統領選が控えている。中国に対して厳しい姿勢をとることは、おおむねアメリカ国民に支持され、トランプ大統領に有利に働いているようだ。トランプ大統領の支持率は、現時点で45%程度と、歴代大統領の再選時に比べて遜色のない高い数字を維持していることから、それがわかる。
では、今後はどうなるか。米中の関税報復合戦は、貿易量を考えても中国に不利だ。特に、中国からアメリカへの輸出品はほとんどが代替可能なものであるので、これにアメリカが関税を課しても、米国国内物価への転嫁が難しくなり、結果として中国の輸出企業が苦しくなるのだ。
こうして中国経済が悪くなると、中国国内の消費や輸入が減る。となれば中国に依存している国ほど経済が落ち込むだろう。無論、日本への影響も避けられないが、それはどの程度のものか。中国向けの輸出業は大変になるだろうが、アメリカで中国製品にかわる代替需要も出てくるので、一部は負の影響が帳消しされるかもしれない。問題は、そのプラスマイナスが国全体でどうなるかだ。