優等生「キログラム原器」が揺らいでいた!
1875年(明治8年)5月20日。パリで世界17カ国が「メートル条約」に署名。それにもとづいて、質量と長さの単位を世界共通のものとする時代が開始した。
日本では1958年まで尺貫法の利用が認められていて、貫、両、匁という独自の質量単位が使われていたが、メートル条約以前のフランスでも、質量の単位はおよそ100もあったという。各国がバラバラな質量単位を使っているのでは、貿易などで大きな支障をきたす。また、1kgを測るハカリも、世界いかなる場所でも同じ1kgを表示してくれないと困る。

A店で買った金塊1kgをB店に持ち込んだところ、「900gしかありませんね」となっては経済取引は成り立たない。
そこで、メートル条約にもとづき、キログラムは1879年(明治12年)に「キログラム原器」(イギリスが製作)の質量と定義された。

キログラム原器は白金とイリジウムの合金で厳密な管理下に置かれており、10万年は質量が不変と言われ、度量衡の世界では最優等生とされてきた。世界各国にその複製が提供され、世界はこの原器をもとにキログラムを運用してきたのだ(日本は4台保有)。
ところが、不変のはずの優等生、キログラム原器の質量が「1億分の5」ほど変化していることが明らかとなった。原因は不明だが、空気中のホコリやカビなどの有機物の付着、また何らかの原因で原子数が増減したという意見もある。
1キログラムの「1億分の5」の変化など大したことないと思えるが、科学と技術は、原子1個を操作するなど、ナノ(10億分の1)、ピコ(1兆分の1)、フェムト(1000兆分の1)の時代を迎えている。質量の計測に「1億分の5」のゆらぎがあるキログラム原器に頼っていたのでは、これからの科学技術のイノベーションの大きな障害となる。
「物理法則」による定義決定でキログラムはビリ
また、国際度量衡局が定めている7つの「SI基本単位」、長さ(メートル)、質量(キログラム)、時間(秒)、電流(アンペア)、熱力学温度(ケルビン)、物質量(モル)、光度(カンデラ)のうち、キログラム原器のような「物」を基準としている単位は、キログラムだけになっていた。
たとえば1メートルは、かつては北極から赤道の距離の1000万分の1と「地球という物」をものさしにしていたが、1983年に真空中で1秒の2億9979万2458分の1の間に光が進む距離と定義が変更されている。
地球は不変の物ではなく、そのサイズは月の引力によってわずかに変動している。そこで地球という「物」ではなく、「光の速度」という不変の物理法則を基準にするようになったのだ。
では、キログラムだけがなぜ「物」を、130年間も使ってきたのか。藤井賢一さんはこう説明した。
「キログラムを物理法則で決定するのは至難のわざで、私たちが生きているうちには実現できないだろうとすら、言われていましたから」
だが、やっとそれが達成でき、昨年、2018年11月20日、国際度量衡委員会が新しいキログラムの新定義を採択したのだ。