不倫は要注意? どういう人が地獄に堕ちるのか
よくわかる!〝地獄の歩き方〟気になる地獄の内奥
想像してごらんなさい――地獄が実在することを。
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地獄がどこに在るのかは、仏教経典やその注釈書にさまざまな説が唱えられています。ある書によれば、それは現世から遠く南方に在るとされ、また別の書には、それは地下深くに在るとされます。
平安時代中期(10世紀)比叡山にて恵心僧都源信(えしんそうずげんしん)が著した『往生要集』(おうじょうようしゅう)では、地獄は地上から比較的浅いところに位置し、それは八重の構造をもつとされます。
たとえるならば、地下に埋まった8階建てのビルの、それぞれの階層(フロア)に多種多様な責め苦が用意され、そこに亡者たちが到達するのを待ち受けると説かれているのです。
地下1階は「等活地獄」(とうかつじごく)、地下8階は「阿鼻地獄」(あびじごく)です。その中間、地下3階は「衆合地獄」(しゅうごうじごく)と呼ばれます。
衆合地獄には、現世において性的な欲望にかられて罪を犯した者が堕ちるといわれています。ここには、次のような責め苦が用意されているのです。
亡者がこの地獄をさまよい歩いていると、目前に1本の立木があらわれる。亡者がふと木の上方に視線を向けると、そこに、姿かたちの美しい女が座っているのが目に入る。亡者は「この婦女に近づきたい」「会って話がしてみたい」と心中に思わずにはいられない。
そこで、おもむろに木を登ろうとする。ところが、この地獄に植生された木は、普通の木ではない。木の葉の一枚一枚が鋭いカミソリの刃のような特別な木。「刀葉樹」(とうようじゅ)と呼ばれる。
しかし、女に欲情した亡者には、そんなことは気にならない。一心不乱に木をよじ登る。必然的に、彼の身体はカミソリの刃に切り刻まれて、全身が血まみれになる。それでも、ようやく木の最上部へと至ってみると、はたして、どうしたことだろう? 女の姿がそこにない。
下方を見ると、女はいつのまにか、木の根元へと降りてしまっている。そして、女は亡者に向かって、こう語りかけるのだ――「あなたのことを想って、私は木を降りて来たのです。どうして、あなたは木の上にいらっしゃるのですか。早くここに降りてきて、どうか私を抱きしめてくださいな」と。
この言葉を聞いた亡者は、矢も楯もたまらず、木を降りる。必然的にもう一度、彼の身体はカミソリの刃に切り刻まれて、全身が血まみれになる。木を降りた亡者は、ようやく女と出会うことができたのか。
もちろん、それは叶わない。女はまたいつの間にか、木の上に座して、媚びた目でじっと亡者をみつめている。女を追いかけて、亡者は木の登り降りを、ただひたすら繰り返すといわれます。
地獄を統括するのは閻魔大王(えんまだいおう)。その配下に多数の獄卒(ごくそつ・鬼たちの意)が控えています。獄卒の一人が、この血まみれの亡者に向かって、次のように呼びかけました――。