つまり、率直に言えば、トランプ陣営はQアノンとトランプ大統領が結びつけられることを、嫌がるようになっているのです。
Qアノンは、一般国民からは「陰謀論者(conspiracy theorist)」と見られているからです。実はトランプ支持者の中にも、Qフォロワーを「異端児」とみて否定的に捉えている支持者も増えてきているのです。
あるQフォロワーは、シークレットサービスに警戒されるのを避けるためか、集会が終了してから「Q」のサインを掲げていました。
「WWG1WGA」とは何か
さて、ルーさんも注目している『偉大なる覚醒への招待』の著者は、「WWG1WGA(Where We Go One We Go All):我々がひとつになる場所に、我々は皆行く」とされています。
実はこの「WWG1WGA」とは、1996年に放映された米映画『ホワイトスコール(邦題:白い嵐)』の劇中で船長が使用したフレーズです。この映画のストーリーは、海洋学校の訓練船が嵐で遭難してしまうというもの。
こうした文脈を踏まえれば、Qアノンは支持者に向かって、「我々のゴールはひとつだ。結束して、みんなでこの嵐を乗り越えよう」と呼びかけていることになります。「嵐」とはおそらく、トランプ大統領が主張しているような、腐敗したエスタブリッシュメント(既得権益者)、政府の役人が構築したシステムないし状態を指しています。
本書の中でも言及されていますが、トランプ大統領はエスタブリッシュメントや政府の役人のことを「ディープ・ステイト(Deep State)」と呼んでいます。そのうえで、「沼の水を抜け(Drain The Swamp)」という比喩を使って、「彼らを排除せねばならない」というメッセージを発信しています。ボウフラがわき、悪臭を放っている「沼」のイメージと、腐敗した既得権益者のイメージを重ね合わせているわけです。
日本人からすれば、「WWG1WGA」や「ディープ・ステイト」「沼の水」と言われても一見何のことだかわかりません。しかしそこに、こうした「反エスタブリッシュメント・反ワシントンを掲げた、『真実を知る人々』による結束」というイメージが込められていることを知れば、米国の一部で展開されている陰謀論的トランプ支持の動向も理解することができるのです。
「WWG1WGA」は書籍の中で、米主要メディアにフェイクニュースとレッテルを貼る一方、Qアノンの投稿を「米国民に真実を伝達するもう一つのメディア(Alt Media)」と位置づけています。Qアノンは、マスコミに対するオルタナティブという自己イメージも活用しているのです。
米国民はQアノンのメッセージを通じて真実を把握し、「目覚める」――。『偉大なる覚醒への招待』というタイトルには、そうした意味が込められています。