持ち株会社は儲かるーー1920年代にはインサルを真似て持ち株会社に移行する米国の企業数は200近くに増えた。電力会社の業界再編も進み、1930年代までには3つの持ち株会社が全米の半分近くの電力を供給していた。
ところが、1929年のウォール街の大暴落でこれが大きく転換することになる。
多くの持ち株会社は電力事業から上がる安定収益を、よりリスクの高い事業投資に振り向けていた。さらに資本を大きく上回る負債を積み上げ、レバレッジ(借金によるテコ)を効かせた事業拡大をしていたのだ。株の暴落でこうした財務体質の脆弱さが一挙に露呈し、債務超過で53の電力会社が倒産。60万人の株主が損失を被り、その怒号の中でインサルの社会的地位は失墜した。
複雑な持ち株会社の事業内容は外から見えにくい。多くの一般株主は大きな電力会社の株なら安全だろうと思いこんでいたのだが、その実体は想像とはかけ離れていたのだ。
この反省から生まれたのが1935年の公益事業持株法(PUHCA ーPublic Utility Holding Company Act)で、それ以降持ち株会社は厳しく規制されることになった。公益事業からの収益を他の事業に振り向けることはできなくなり、公益事業の10%超を保有する持ち株会社が州をまたがって事業を展開する場合には、SECへの報告も義務づけられた。
この規制の効果はテキメンで、1938年からの20年間の間に米国での持ち株会社の数は200から20以下に激減した。
しかし、その後1990年代のエネルギー自由化、2003年の包括エネルギー法案可決によってPUHCAは廃止される。
その流れの中で巨大電力会社エンロンが生まれ、レバレッジとバランスシートに載らない大量のリスク資産を抱えて倒産した歴史を見ると、因果を感じざるを得ない。