写真家の稲田美織さんは、17年間住んでいたNYを拠点として、世界各国の「聖地」を撮り続けてきた。導かれるような出会いを経て、伊勢神宮をはじめとした「日本の聖地」を撮影するようになったのは2005年のことだ。
日本の聖地のひとつ「出羽三山」も、巡礼のように通い続けたひとつである。写真集『日月巡礼 出羽三山』の発売を記念して、写真集よりその神秘をご紹介し、聖地を撮り続けてきた稲田さんが見てきたものを綴ってもらおう。
NYのテロが聖地撮影のきっかけに
私が、写真家として聖地を撮影するようになったのは、2001年9月11日に起こったアメリカ同時多発テロを、自宅からすべてを目撃したことから始まりました。目の前で飛行機が突入し、3000人近い人々の命が、一瞬にして消えてしまったのです。私はその時、神さまに、「こんなこともうやめてください、そのためだったら何でもします、どうか私を使ってください」と、必死に祈っていました。
私は1991年から17年間、ニューヨークに住んでいましたが、9.11によって、それまでの自分の中の価値観が大きく変わってしまいました。100以上の人種と言語が存在するニューヨークで、人々が友人として仲良くなってゆけば、いつしか宗教や人種などの壁を越えて、世界中が平和になってゆくものだと信じていました。私にとって、世界の縮図であるニューヨークで、あのようなテロが起き、それがある種の宗教戦争のようになってしまったことに、とても失望したのです。神さまが本当にいらっしゃるのならば、なぜ、あんな悲劇を起こすのか、神さまは私たち人類をどこに導こうとされているのかと。
最初の一年は、深い悲しみの淵に沈み、一枚も写真は撮れずにいましたが、偶然見つけたネィティブアメリカンの聖地写真集を見て、その自然と共に生き、祈る、美しい光景に希望の光を直感し、カメラを持って、それらの聖地を巡って行きました。すると、凍り付いていた心が少しずつ溶けてゆくのを感じ、いつしかカメラを手に取り無我夢中で撮影していたのです。そこから、体の中に力を取り戻し、自分の目と肌で感じようと、問題の原点であるイスラム、ユダヤ、キリスト教の聖地であるイスラエルやパレスチナに行って、調和への鍵を探す巡礼の旅を始めたのです。
その後、世界中の様々な宗教の聖地をカメラに収めていきました。それぞれの宗教の教えは素晴らしく、人々の祈りの姿は尊いものでした。ある時、日本大使の依頼でキリスト正教の国であるウクライナを訪れる機会がありました。その際、ウクライナにあるユダヤ教の聖地であるウーマンという町に、大使館のウクライナ人スタッフに頼んで赴いたのです。私が中に入ろうとした時、その方は、ここは自分の神さまの聖地ではないから、外で待っていますと、言うのです。
日本人は、お正月に神社に行き、結婚式はキリスト教会であげて、お寺で法事をすることに何も違和感がなく、最初、日本人は節操がないのかと思っていたのですが、その全てを受け入れる感覚こそ平和への大切な感性だったのではないかと気が付いたのです。世界からすると日本人の宗教観が特別だったのです。