漫画家で小説家の折原みとさんは、20年ごしの夢を叶えてリキという愛犬と暮らしていた。犬は人間の数倍のスピードで生きる。どうしても、別れは人間より早くやってくることが多い。エッセイ『おひとりさま、犬をかう。』には、出会う前の話から別れのとき、そしてそのあとのことも率直に綴られた一冊だ。
今回はそこから「まだまだ元気」だと思っていた愛犬に急な「余命宣告」を受けた時のことを抜粋掲載する。
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犬は人間の数倍のスピードで生きている
大型犬は、7~8歳になるともう「シニア」と呼ばれる。
早い子は10歳くらいで亡くなってしまうこともあるので、10歳を過ぎたら、毎日が「神様からのプレゼント」だとも言われるくらいだ。
リキは10歳過ぎても元気で食欲旺盛。性格も子犬の頃とたいして変わらず落ち着きがなかったけれど、さすがに顔の毛はだいぶ白くなったし、足腰も弱くなってきたようだった。いつも2階の私の寝室と、寝室のベランダを居場所にしていたのだが、お散歩のために階段を下りる時、少し怖がって尻ごみするようになってきた。多分、年のせいで足の踏ん張りがきかなくなってきたんだろう。
若い頃にはヒョイと簡単に飛び乗っていたベッドにも、踏み台を使って「どっこいしょ」というようによじ登らなければならなくなった。
食いしん坊もやんちゃな所もそのままでも、リキは確かに年をとっているのだ。
子犬の頃は、毎日毎日、身体がグングン大きくなって、新しいことを覚えていくのを見ているのが楽しかった。

だけど今は、毎日確実に老いていくのが目に見えてしまう。
人間の数倍のスピードで生きている犬だからこそ、老いも数倍の速さなのだ。
リキが12歳になった頃から、私はそろそろ、やがてやってくる別れの時を覚悟しなければならないと思うようになった。
元気そうに見えても、12歳は、もういつ何があってもおかしくない年齢だ。リキがいつもよりおとなしいと不安になるし、いつものようにごはんをガツガツ食べ、ゴミ箱をあさったり盗み食いをしたりすると、怒るどころかホッとするようになった。
少しでも、1日でも長く元気でいてほしい。神様からいただいている貴重な時間だからこそ、大切にしたいと思っていた。
リキの「老い」がいよいよ目立って感じられるようになったのは、13歳の誕生日を迎えた2010年の6月頃だった。
家のドアノブはレバー式なのだが、リキは後ろ足で立って器用にレバーを引き、ドアを開けるという技を持っていた。だから、寝室のドアには外側から鍵をかけていたのだが、うっかり鍵をかけ忘れると自分でドアを開け、勝手に部屋から飛び出して家中を走り回ることがよくあった。が、13歳になった頃から、リキは自分でドアを開けて寝室から飛び出すことが少なくなってきたのだ。