トヨタ自動車の代表取締役社長・豊田章男氏が母校であるアメリカのバブソン大学にて行ったスピーチが話題を呼んでいる。5月18日の卒業式にゲストスピーカーとして登壇したものだ。

何がアメリカ人の心をつかんだのか? 内容の紹介と共に、NYで自身の「ブレイクスルーメソッド」を利用したプロスピーカーとして活躍し、7月には『20字に削ぎ落せ ワンビッグメッセージで相手を動かす』という著書を出すリップシャッツ信元夏代さんに解説・分析してもらった。

 

アメリカ人の若者も家族も拍手喝采

退屈なスピーチやプレゼンを聞かされた経験となると、ほとんどの方が「ある」と答えるのではないでしょうか。

よく日本人はスピーチが下手だといわれますが、残念ながら私が見聞きしてきた経験では、そういうケースが多々あります。
しかしそれは決して日本人が口ベタだから、といった理由ではないのです。

最近、私が見て感心したスピーチは、トヨタの代表取締役社長、豊田章男氏が米国バブソン大学卒業式で行った祝辞です。

ビデオをご覧いただければわかりますが、どかん、どかんと笑いがあがり、アメリカ人の若者も家族たちも拍手喝采を贈っています。

いったい文化の壁を越えて、これほど人々の心を掴むスピーチには、どんな秘密があるのでしょうか。

では、豊田章男氏のスピーチ「さあ、自分だけのドーナツを見つけよう」をブレイクスルーメソッドに沿った形で分析していきましょう。

印象は7秒で、おもしろさは30秒内で判断

最初の挨拶のあと、豊田氏のスピーチ本体の冒頭は「大切なことだけ言います」から始まります。ズバッと最初から3秒ほどで、切りだしているわけです。

そして「卒業後、仕事があるか不安を感じている皆さんもいるでしょう、皆さんの心配事をまずは解決しましょう」と卒業生にとってもっとも関心の高い就活問題にふれて、

みなさん全員にトヨタでの仕事をプレゼントします

と、いきなり驚きの爆弾発言。
とたんに「うわーッ」と卒業生たちがどよめきます。
ここまでが、ちょうど30秒ほど。

このオープニングの手法がまずうまい。一気に若者たちの心を引きつけています。

スピーチでは「最初の7秒」で印象が決まるとされます。
わずか7秒の間に口にすることで、第一印象が決まってしまうのです。

そして話が始まったところで、聞いている側は「30秒」で話がおもしろいか、おもしろくないかを判断するのです。
ほとんどの話は、プレゼンだろうが、セールスだろうが、30秒内という短い時間で判断されます。

ブレイクスルーメソッドでは、これを「7秒—30秒ルール」と呼んでいます。

それで考察すると、まさに豊田氏のオープニングは、この「7秒—30秒ルール」に当てはまるものなのです。

そしてオープニングに「The Bang!」(バーン!)を入れることを提唱しています。

「バーン!」とは英語で「じゃーん!」とか「ドカーン!」といった意味で、まず冒頭で聞き手の注意を掴むこと。

芸人さんでも「つかみ」は何より大事ですね。
豊田氏は「大切なことだけ言います」と切り出し、「つかみはオーケイ」な出だしとなっているのです。

アメリカ・マサチューセッツ州にあるバブソン大学 Photo by Getty Images