「乙武義足プロジェクト」が進行している。両手両足がない乙武洋匡氏の義足歩行トレーニングを、エンジニア、義肢装具士、理学療法士などの多くのプロフェッショナルが支えている。
いよいよ、プロジェクトメンバ-の技術と努力の結晶であるロボット義足が、乙武氏のもとに届けられた。これを装着し歩くことで、プロジェクトも前に進める。乙武氏は決意も新たに義足を装着したが――。

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「シュービル オトタケモデル」完成!

さあいよいよ、「シュービル オトタケモデル」の装着だ。

これが完成版「シュービル オトタケモデル」の完成版

まだその機能は使わないとはいえ、膝継ぎ手とバッテリーなどが新たに加わったロボット義足の重量は、片足5.4キロになった。これまでの義足より1キロ以上重くなったわけだが、それが堪えた。

いつも通りに義足を履き、マネジャーの北村に抱えられて立ち上がったとき、「立っているだけでやっと。足を前に出すなんて絶対ムリ」と感じてしまったのだ。

「膝が入ると重くなりますよ」とは言われていた。しかし、「百聞は一見にしかず」ならぬ「百聞は一歩にしかず」。履いてみてはじめてわかる重量感だ。

これが今までの義足

足を振り出そうとしてもなかなか前に出ない。例によって大量の汗が身体から吹き出る。歯を食いしばって両足の断端に力を込め、やっとの思いで数センチずつ足を踏み出していった。

ほとんど成果のなかった練習を終えて、北村に義足を外してもらっていると、義足エンジニアの遠藤氏が「まずは重さに慣れることからですね」と話しかけてきた。だが、不安は募る。慣れるものなのだろうか。

その日の夜、私は背中一面が固くこわばっていることに気づいた。いままでの義足練習ではそこまで感じることのなかった腰の痛みや背中の張り。伸ばしたりひねったりしてほぐそうとしても、まるで効果がない。カチコチに固まった背中を押しつけるようにベッドに倒れこみ、暗い気持ちのまま眠りに落ちた。

エンジニア遠藤氏の悩み

このころ、遠藤氏も悩みを抱えていた。

乙武義足プロジェクトは、以前にも説明したように国の予算を使って進められており、年末の中間審査を通過しないと来年以降のプロジェクトの存続ができない。そのため、年内に発表の場を持つ必要があった。

遠藤氏は、公の場でプロジェクトメンバー全員による乙武プロジェクト発表の機会を持ち、それをベースにCRESTへの報告書を作成することを考えていた。そのためには、まず私がロボット義足を履いて歩く姿を見せることが前提となる。しかし、ロボット義足に変えた途端にまともに歩けなくなっているようでは、その案は現実的ではなかった。

遠藤氏は代案を考えた。毎年11月に渋谷ヒカリエで開催されている「超福祉展」のシンポジウムで、私がロボット義足で歩いている映像を発表するというプランだ。超福祉展とは、最先端福祉器機の展示、シンポジウム、体験型イベントなどで福祉の未来を体感する展示会で、遠藤氏やデザイナーの小西氏もかつて参加したことがあった。

映像なら、何回でも撮り直すことができる。遠藤氏が言っていた「ソファに座っている乙武さんが立ち上がって玄関まで歩いていく」姿はさすがにムリだろうが、数メートル歩くだけなら、頑張ればなんとかなるかもしれない。

1ヵ月後に私がまともに歩いている姿を撮影する。その映像とこれまでの映像を編集したものを超福祉展で公開する。それを遠藤氏はCRESTに報告し、メディアにも公開する。それが我々に課せられたミッションとなった。