勢いがあり、成長著しいベンチャー企業で活躍する人が、ここ数年でガラッと変わった。具体的に言うと、大企業出身者が増えているのだ。
しかし、大企業からベンチャーに転職して、輝かしい成果を上げる人ばかりではない。ベンチャーに行ったばかりに職業人生が「アドベンチャー」になり、そっと消えていった人も実際は多く存在するのだという。
大企業からベンチャーに移って成功する人、失敗する人の違いは何か?
『「いつでも転職できる」を武器にする』の著書もあり、600社以上の人事の表とウラを知り尽くした人事・戦略コンサルタントの松本利明氏が解説する。
安定期に向く人、導入期・成長期に向く人
「導入期」「成長期」「安定期」「衰退・再展開期」といった事業のライフサイクルはご存知でしょう。実は、この各フェーズに応じて求められる人材要件は異なります。
安定期はビジネスモデルが定まり、効率的かつ安定的に組織運営を行うのが得意な人材タイプが出番です。
「効率的に仕組み化とルールを行い改善しながら運営してく人材」がフィットします。この安定期に資質がフィットした人が、導入期のスタートアップの企業に移ったら機能しないのは目に見えるでしょう。
導入期で一番キーになるのは「一発当てること」です。
資本を集める等の目的で事業計画などは策定しますが、計画通りにいかないのが当たり前の世界です。理屈だけでなく、どう一発当てて事業を成長軌道に乗せるかが成否の分かれ道です。
ビジネスモデルすらきちんと固まっていない中では、安定期にフィットした人材は不安しかありません。安定期の人材はビジネスモデルがきちんと機能していて初めて出番がくる存在なので、導入期には不向きです。
成長期も同様です。成長期は一発当たり、その売上が全てを癒すフェーズで、どんどん組織は成長していきます。
勢いはあるけれど、先々は簡単には読めず、ほころびが出ても、何とか状況対応しながら乗り切ることになるため、安定期の人材は成長期でも不安でストレスしか感じません。
また、安定期の人材は成長期のフラットであれやこれやで乗り切る文化は好みません。組織や階層をつくり、制度やルールを決め、指揮命令系統で動かそうとすることで、成長のスピードを鈍化させ、組織を膠着化さてしまいます。成長期の変化のスピードについていけず、どうしても離脱するのです。
そうはいいつつ安定期の大企業出身でも導入期・成長期のスタートアップで活躍できる人もいます。理由はシンプル。
安定期の大企業でも導入期や成長期の経験ができる企業は存在します。Google、Amazon等のGAFA企業がまさにそれ。ビジネスモデルの効率化に加え、新しいビジネスを立ち上げ、もともとのビジネスモデルをより強固なものに高めていく企業は存在します。
大企業でも新規ビジネスやアライアンス(業務提携)を仕掛ける部署に在籍し、実際に成長軌道に乗せる仕事を担うケースもあります。金融機関やコンサルティング会社でも、スタートアップ企業を対象にした部署もあります。
そう、大企業にいても、このような部署やプロジェクトで資質が見いだされ、経験を積んだ人材は導入期や成長期のスタートアップやベンチャーに移籍しても、難なく活躍できるのです。
一方で、安定期しか活躍できない人材は安定期を出ると死ぬのです。