厳しい労働環境、痛ましい事件
そもそも、なぜSOMPO HDは全く業種の違う介護業界に進出したのだろうか?
長年にわたる日本経済の停滞により、若者を中心に自動車離れが進んだ結果、損保業界は主な収益源である損害保険の領域で苦戦を強いられてきた。海外展開の方向性もあるが、業界トップの東京海上日動も海外進出を本格化させ、差別化が難しくなっていた。
そんな折、2016年4月からCEOに就任した桜田謙吾社長の下で、今後さらに進む高齢化社会を見越した事業展開が加速した。15年12月に外食大手ワタミの介護子会社「ワタミの介護」を買収し、16年3月には介護大手メッセージも子会社化、業界2位に浮上した。2018年3月期には、介護事業単体での黒字化を達成している。
この買収をめぐっては、両企業とも「いわく付き」だっただけに物議を呼んだ。メッセージは14年に川崎市内の老人ホームで職員がベランダから3人の入居者を転落死させる殺人事件を起こし、ワタミの介護も16年2月、入所者の74歳女性を板橋区内の介護付き有料老人ホームで入浴中に溺死させる事故を起こしていたためだ。
これら二つの事件・事故については、介護業界の厳しい労働環境にひとつの原因があったといえる。
公益財団法人「介護労働安定センター」の17年度実態調査によると、調査対象となった全国の介護事業所の55・2%が、運営上の課題として「良質な人材の確保が難しい」ことを挙げており、全国の事業所の66・6%が「従業員不足」と回答している。
また、離職者のうち65%が勤続3年未満と従業員が定着していない一方、外国人労働者を雇用している事業所は全体の5・4%にとどまる。他業種と比べても低い給与水準や、介護職員の家族が要介護状態となる介護離職も問題となっている。