大学当局も把握しているのに
昨年、早稲田大学文学学術院で発覚したセクハラ問題は、アカデミアを震撼させた。しかしその事件の陰で、早稲田に「もうひとつのハラスメント疑惑」が持ち上がっていたことを知る人は少ない。
教授のパワハラによって、大学院生が次々と体調を崩して学校に来られなくなり、博士論文を執筆できないまま退学してしまう――人知れず、そのような「異常事態」が起きていたというのだ。
問題の教授が主宰する研究室は、2003年に新設されたスポーツ科学部などを擁する、早稲田大学スポーツ科学学術院にある。所属する大学院生が次々とパワハラの被害に遭い、これまで博士課程の院生4人が退学を余儀なくされた。
疑問なのは、大学がこの教授によるパワハラの疑いを把握していながら、調査をうやむやにし、何の処分も下していないことだ。
2018年9月には、大学の「リスク管理及びコンプライアンス推進に関する規則」に基づいた調査委員会が、「学部生・大学院生に対するパワーハラスメントの可能性が確認できた」と教授によるパワハラの可能性を認めた。その後、ハラスメント防止委員会で調査が続けられていたはずだった。
ところが今年5月、突然調査は打ち切られたという。どのような経緯があったかは不明で、教授もお咎めなし。パワハラの被害を受けてきた関係者は憤っている。
「もう早稲田と関わりたくない」
「教授は院生に対して攻撃的で、当時の研究室ではみんなうつ状態にあり、自分も学校に行くのが苦痛だった」
「大声で罵倒され、指導は受けられず、博士論文を出させてもらえなかった」
「教授の足音が研究室に近づいてくるだけで身震いがした」
「もう早稲田大学とは関わりたくない」
これらの悲痛な叫びは、編集部が入手した、問題の教授によるパワハラの実態をまとめた資料に「被害者の声」として記述されているものだ。
教授の研究室では2012年から2014年までに、所属した大学院生7人が教授からのパワハラによって体調を崩し、通学できない状況に追い込まれた。院生が使う研究室は誰も出入りしなくなり、当時「開かずの扉」と言われていたという。
そのうち4人は博士課程に在籍する院生だった。教授からはパワハラを受けた上に、論文指導もしてもらえず、4人とも論文を書けないまま退学しなければならなかった。
さらに4人のうち3人はうつ病を罹患。退学後、2年間実家に引きこもらざるを得なかった人もいるという。彼らは人生を狂わされた、と言っても過言ではない。