漫画家で小説家の折原みとさんは、20年ごしの夢を叶えてリキという愛犬と暮らしていた。犬は人間の数倍のスピードで生きる。どうしても、別れは人間より早くやってくることが多い。エッセイ『おひとりさま、犬をかう。』には、出会う前の話から別れのとき、そしてそのあとのことも率直に綴られた一冊だ。
前回は愛犬に急な「余命宣告」を受けた時のことを抜粋掲載した。今回はその続きの大切な時間についてお伝えしよう。
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食いしん坊のリキが食べない
リキの具合が急に悪くなった。
朝まではお散歩もしてごはんも普通に食べていたのに、夕方は散歩にも行かず、ごはんもほとんど残してしまったのだ。
ごはんを食べない。
これは、かなりの非常事態だ!
無類の食いしん坊のリキだから、「この子はごはんを食べなくなったら終わりだ」と常々思っていたのだ。
余命宣告されたといっても、まだあと半年……、悪くても3ヵ月くらいは一緒にいられるだろうと考えていたのに。
もしかしたら、意外に早くその時がきてしまうのかもしれない。
ちょうど漫画の締め切り中で、我が家にはたくさんのアシスタントさんに来てもらっていた。病院に行く時間がないのでリッキー先生に往診に来てもらった。
先生は、ステロイドの副作用で一時的にだるくなっているだけで、すぐにどうこうということはないだろうと言ってくださったが、すっかり大人しくなってしまったリキのことが心配で、アシさんたちには1日早く帰ってもらうことに。
原稿の仕上げは自分で何とかがんばるとして、ゆっくりリキの側についていてやりたかったのだ。
夕方、アシさんたちが解散した後になると、リキは昼間打ってもらった栄養剤の注射が効いたのか少し元気になってきて、寝室から出てきて仕事部屋のゴミ箱をあさり始めた。普段なら怒るところだけど、今はその元気があることが嬉しくて怒れない。
新年の挨拶に迷う
私は、リキとの最後のお正月を迎えようとしていた。
リキはだいぶ食欲が落ちて、もうドライフードには見向きもしなくなってしまったから、お肉と白米を煮込んで手作りごはんをあげた。

世の中には、毎日愛犬のためにごはんを手作りする飼い主さんもたくさんいらっしゃるだろうけど、リキは口に入るモノなら何でも大喜びだし、好き嫌いもアレルギーも皆無の健康優良児だったので、私が手作りごはんを作るのは、この期に及んで初めてのことだ。
リキの喜びそうなささみジャーキーやひと口チーズもスーパーで買い込んで来た。
リキのために、何かしてやれることが嬉しかった。
ついこの間までだったら、目を輝かせて一気にたいらげたはずの特製ごはんやおやつにも、すっかり反応が鈍くなってしまったのが悲しかったけれど。
年が明けると、ブログに毎年恒例のリキの写真と、リキからの新年のご挨拶をアップしたが、「今年もよろしくお願いします」というセリフは書けずに、「みなさんにとっていい年になりますように」というメッセージを送った。