ほんの少しの回復が嬉しい
2011年、元旦。
リキは少し元気になって、いつものお散歩コースを半分歩くことができた。
リキのちょっとした体調の変化に一喜一憂しながらも、私はリキとふたりきりで穏やかなお正月を過ごしていた。2日、3日と、リキの体調はちょっとずつ上向きになってきたように見えて、お散歩コースも半周できたし、試しにあげてみたドライフードも少し食べた。

よしよし、食欲も戻ってきたかな?
3日からリッキー動物病院が診療していたので車に乗せて連れて行くと、リキはいつものようにはしゃいで、カウンターに置いてあるおやつをねだったりしていた。
意外に元気なリキの様子に、リッキー先生は「抗癌剤のことも検討してみてください」と言ってくれたけど、私は抗癌剤の副作用でリキに辛い思いをさせたくなかった。
もしも抗癌剤が効いたとしたら、何ヵ月かは命を延ばせるかもしれない。
でも、何よりも食いしん坊なリキが、副作用で食欲が無くなり、大好きな散歩にも行けなくなるようなら、リキ自身は生きていても嬉しくも何ともないだろう。
私のエゴで、リキを苦しめちゃいけない。
QOL(クオリティ・オブ・ライフ)
人間の医療現場で、最近は重要視されている考え方だ。
ただ命を永らえさせるよりも、生きている時間の〝質〟を大切にする。
今まで描いてきた医療系の漫画の中でも、何度も使ってきた言葉だが、今はそれを実感していた。
人間も犬も、QOLを大切にするという考え方は同じじゃないだろうか。
残された時間は、長くない
だが、抗癌剤のことであれこれ迷う必要はなかった。
3日の夜からリキは食べたものを吐くようになり、4日には、2階から階段を下りることができず、とうとう散歩にも行けない状態になってしまったのだ。
最悪と言われた1ヵ月よりもずっと早く、病状は急激に悪化してしまったらしい。
残された時間は、長くない。
とにかく、早く仕事を終わらせて、リキの側についていたい。
今描いている漫画が上がれば、しばらくは時間に余裕がある。
それこそ24時間だって、ベッタリ一緒にいてやれるんだ。
5日は、少し体調が良くなって、自力で階段を下りて動物病院に行くこともできた。
夜、寝室に行くと、リキはベッドから下りてクッションのほうに横たわっていた。
大きなアーモンド型の瞳が、物言いたげに私を見つめている。
ベッドサイドのやわらかな照明に包まれて、ミルクティー色の身体が淡く光って見えた。
仕事も終わったし、明日からはずっと一緒にいられるからね。
私は、リキの穏やかな視線の中で眠りについた。