国家に没取される「会社負担分」
厚生年金の利回りが大幅なマイナスになっているというのはとんでもないスキャンダルだと思うのだが、それが問題にならないのはサラリーマンがこの「搾取」に気づいていないからだ。
毎年1回送られてくる「ねんきん特別便」の加入記録では、厚生年金の保険料は(会社負担分を含む)総額ではなく、半額の自己負担分しか記載されていない。これだと支払った保険料の総額は2500万円ほどで、4000万円ちかくが戻ってくるのだから、なんとなく得に思える。
「(社員が納めるべき)社会保険料は労使で折半」なのに、加入記録では会社負担分がまるごと削られている。だが、なぜそのようにしているのかついての合理的な説明を厚生労働省はいっさいしていない(できるはずもない)。
会社にとって、社会保険料は社員を雇うと課せられ、社員の数が減ればそのぶん免除される。社員の給与が上がれば社会保険料は増え、減給すれば減る。ここからわかるように、厚生年金や組合健保の保険料は人件費そのもので、本来は社員が全額支払うべきものを形式的に会社が半分負担しているだけだ。その会社負担分が国家によって「没収」されている。これが厚生年金の実態だ。
搾取された保険料はどこに消えた?
それにもかかわらず(あるいは、それだからこそ)厚労省は躍起になってパートや非正規労働者などを厚生年金に加入させようとしている。「加入者の将来の年金受給額を増やすため」と説明されるが、その真意は、「厚生年金の加入者が増えれば、その分だけ没収できる会社負担分が増える」からだ。
国家に「没収」された保険料はどこに消えているのか?
それはいうまでもなく、巨額の赤字に陥っている年金財政の補填だ。国民年金と厚生年金は別のもののように語られるが、じつは基礎年金の部分でつながっており、その赤字はサラリーマンが納める厚生年金の保険料で穴埋めされているのだ。

高齢世代の年金補填のための“生贄”
日本の年金は賦課方式で、現役世代が拠出した保険料が高齢世代の年金として支払われる(あなたがこれまで納めた年金保険料はすでに使われてしまっている)。厚労省はゼロ年代のはじめまで、「年金は子ども世代から親世代への仕送りで、損得を考えることは不道徳だ」と主張してきた。
それが第一次安倍内閣の年金記録問題(2007年)で制度への不信が広がり社会が動揺したため、一人ひとりが保険料の拠出額と将来の受取期待額を確認できるように大きく方針が変更された。加入者は保険料をヴァーチャルに積み立てており、それに相応する年金受給権を国家が保証するという理屈になったのだ。
北欧でもこうした「ヴァーチャル積み立て方式」を採用しているので、ここまでは問題ない。
だが「ねんきん特別便」に厚生年金の実態を正直に記載すると、年金保険料が半分消えていることがバレてしまう。そこで、サラリーマンがこれまで支払ってきた会社負担分の保険料をすべてなかったことにするという、トンデモないことになったのだ。