平成30年9月28日に内閣府から出された「配偶者からの暴力に関するデータ」によれば、配偶者暴力センターにくる相談の件数は平成24年から毎年1000件を超え、警察には7万件もの相談が寄せられている。中には、殺人に至ってしまったケースもある。しかし中には「DV」という認識がないままにただ辛い思いをしている人も少なくないのではないだろうか。

かつてデザイナーとして仕事をはじめた立花遥さんもその一人だった。仕事のできる15歳年上からの5年間にわたる暴力と軟禁から、彼女はどうやって脱出することができたのだろうか。そこからは「暴力とは何か」という根本のこともわかってくる。

15歳上で仕事ができる「大人の恋人」

20歳になったばかりの頃、デザインの仕事をし始めていた私は友人の紹介でとある実業家と出逢った。35歳の彼は、才能と魅力に溢れていて、いつも友人に囲まれている人気者だった。常に女性が周りにいるような人でもあったが、まだ世の中をよく分かっていなかった私は、可愛いね〜とからかわれていたのを真に受けて、彼を好きになってしまった。

私には到底できないような仕事を生み出し、カリスマ性もある彼のことを尊敬していたので、彼に見合うようになりたいと努力するようになった。

若く全力投球だった私に彼も興味を持ってくれ、すぐにお付き合いするようになった。しかし、数日彼の家に泊まり、そろそろ洋服などを取りに帰りたいと言っても、「え〜なんで〜寂しいから家に居てよ」と、自宅に帰してくれなくなっていった。

彼の自宅には仕事場が併設されており、自宅で仕事をしていたので四六時中ともに過ごせる状況だった。付き合い始めたばかりのときは私も浮かれていて、心から素直に彼の言うことを聞いていた。私の仕事についても、「俺の仕事を手伝ったほうがお前のためにもなるし、一緒に暮らしていくほうがお金の節約にもなる。俺と生きていきたいならそうしなよ」と何度も説得を重ねられ、半年も経たないうちに自分の仕事をほとんど辞めることになった。「大好きな人が言うことなのだから、絶対そうしなければ、彼の言う通りにしたい」と思っていた。

家にずっといるように言われ、実家や友人との付き合いよりも彼を優先するように言われ、彼の仕事をただひたすら手伝うようになった。でも最初は、一緒にテレビを見たり、ご飯を食べられたりできることがただただ嬉しかったのだ。

ずっと一緒にいられるだけで幸せ、と思っていた……Photo by iStock

友達と連絡を取ると怒る

しかし、始めは優しかった彼も、だんだんとよそ行きの顔ではなくなっていった。

私は今まで同棲をしたこともなければ、彼のように情熱に任せて感情を爆発させる人と長時間を過ごしたこともなかった。仕事に行き詰まると、時に怒鳴り散らし、物を壊した。そんな彼を見てとても驚き、私は萎縮していった。自分の意見を言っても、大きな声で反対されて威圧されることが続いた。付き合い当初は15歳上の彼の言うことに疑問を抱くことすらなかった。しかしこの頃は、疑問を抱いても彼の言うことに逆らうことができなくなっていた

つき合う前は毎晩のように飲み歩いていた彼だが、付き合ってからは週2~3回になった。しかし、それでも一人で出かけてしまうと、朝まで帰らなかった。昔のように女の人達と遊んできたのだろう、とわかることもあった。いろんな意味で不安で仕方がなかった。

自分は飲みに行っても、「私もたまには友人に会いたい」などと言おうものなら、露骨に不機嫌になり、言葉遣いも目線も冷たくなった。私が友達と連絡を取ることも嫌がり、それなら俺もそうする、と私の目の前でおもむろに他の女性に当てつけのような電話をしたりもしていた。

私は嫌われたくない一心で、どんどん誰とも連絡を取らなくなった

彼はこちらの心理を分かったうえで、無言の圧力をかけ言うことを聞かざるを得ない空気を作っていたのだと、今となっては分かる。初めての大恋愛だと思っていた自分にとっては、そんなテクニックや心理戦に応酬できる術もなく、どんどん悪循環に入っていってしまった。