米津玄師が2019年の日本を席巻している〜「国民的ヒット」の理由

キーワードは「美しい」という言葉
柴 那典 プロフィール

なぜここまでヒットするのか

米津玄師の楽曲がここまでヒットしているのは、なぜなのだろうか。そして、そのことは、何を象徴しているのか。

筆者は2013年のメジャーデビュー当時から米津への取材を重ねてきた。さまざまなインタビューの中でも、印象に残っているのは「普遍的なものを作りたい」とたびたび発言していたことだ(1)

もともと「ハチ」名義でボーカロイドを用い動画サイトに投稿することから音楽活動を始め、その後本名名義でシンガーソングライターとして自らの声で歌い、ライブのステージに立ち、世界的なダンサー辻本知彦との出会いからダンスを踊るようになり、少しずつ表現領域を拡大してきた彼。

メジャーデビュー曲の「サンタマリア」を発表した当初から、特定のジャンルやコミュニティを対象にするのではなく、誰もが受け取ることのできる普遍性のあるポップスとして音楽を作ることを企図してきた。

「時代の流れを体現したい」という発言も印象に残っている。それは自分で掴み取るものではなく偶然誰かに選ばれるように決まるものだと、だからできるだけその時のために準備をしたい、とも語っていた(2)

結果的に「Lemon」がまさにそういう一曲になったわけだが、彼は最初からポップソングを、スタンダードナンバーを作ることを目指して歩みを進めてきたアーティストだった。

 

しかし、彼が目指してきたポップスに「わかりやすい」「等身大」といったキーワードはない。

「パプリカ」にまつわるインタビュー(3)の中でも、応援ソングを作ってほしいというNHKのオファーに対して「子供の頃から、わかりやすい大きな応援ソングというものに対する嫌悪感がすごくあった」と葛藤があったことを語っている。

そのかわり、彼がたびたび語るキーワードが「美しい」という言葉だ。菅田将暉に自ら声をかけてデュエットが実現した「灰色と青」や、制作過程での祖父の死に大きな影響を受けた「Lemon」など、キャリアのターニングポイントになった数々の楽曲について、彼自身は「美しいものを作りたいと思った」と制作の背景にある思いを語っている(4)

つまり、米津玄師の社会現象的なヒットからは、「わかりやすさ」ではなく、圧倒的な「美しさ」が深い共感を呼び、今の時代における大衆性に結びついているということが言えるのではないだろうか。

(1)「"呪い"を解く鍵『YANKEE』に込めた思い」(音楽ナタリー)
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi04
     「『Bremen』を目指してたどり着いた場所」(音楽ナタリー)
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi07
(2)「怪獣として育った少年が、神様に選ばれるまで。」(cakes)

https://cakes.mu/posts/11823
(3)「米津玄師、子供たちへの祝福を願った「パプリカ」誕生秘話(マイナビニュース)
https://news.mynavi.jp/article/20180815-677188/
(4)「オリジナルってなんだ?"海賊版"に詰め込んだ美と本質」(音楽ナタリー)
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi11
  「人間の死を見つめて」(音楽ナタリー)
https://natalie.mu/music/pp/yonezukenshi12

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