米津玄師が2019年の日本を席巻している〜「国民的ヒット」の理由

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柴 那典 プロフィール

「海の幽霊」を徹底分析してみると…

特に「海の幽霊」を深く分析して聴くと、そのことがよくわかる。

この曲のサウンドは、J-POPの王道として耳馴染みのあるものではない。むしろ、かなり革新的かつ先鋭的なものになっている。

海外のポップスやR&B、ポスト・クラシカルなど最先端の音楽ジャンルとリンクしつつ、彼独自の美学を感じさせるものになっている。

 

「開け放たれた この部屋には誰もいない」という歌い出しで耳を惹くのは、デジタル加工された声の重層なハーモニーだ。

「灰色と青」でもイントロから用いられているが、これは「デジタルクワイア」と言われる、通常の人間には出せないエレクトロニックなハーモニーを鳴らす手法。

ボン・イヴェールやチャンス・ザ・ラッパー、フランシス・ザ・ライトなど数々のアーティストが取り入れ高い評価を集めている。

たとえば、ボン・イヴェールの「715 - CR∑∑KS」という曲は、このデジタルクワイアを効果的に用いたアカペラのナンバーだ。

「海の幽霊」はアレンジもユニークだ。

AメロやBメロはピアノとシンセ、ゆっくりとしたテンポの硬質なビートから組み立てられ、サビでは重低音のベースが存在感を放っている。

「サブベース」と呼ばれる超低音のシンセベースを用い、それ以外は引き算のサウンドメイキングがなされている。

同じように、ゆっくりとしたテンポとサブベースの低音を用いた楽曲が、グラミー賞の最優秀R&Bアルバム賞にも輝いた新鋭女性シンガー、H.E.Rの「Focus」だ。この曲と「海の幽霊」にも通じ合うポイントがある。

さらに、上記の「デジタルクワイア」と「サブベース」を効果的に用いた楽曲が、ビリー・アイリッシュの「when the party's over」だ。

現在17歳、デビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO』が全米1位を獲得し世界中で大反響を巻き起こしている彼女。

2000年代に生まれた「Z世代」を代表するスターとなりつつある彼女の表現にも、その根底にはどこか孤独や内省的なものがあることを感じさせる。

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