「いのちの力」が新しい関係性を作る

「高次脳機能障害とは、なかなか一言では括れない多彩な症状を示す。脳は複雑な活動を同時並行で行っていて、その複数の活動同士がうまく噛み合わなくなる状態をいう。ただ、人間の生命とは本当に不思議なもので、数十億年の間、生き残り続けてきたいのちの力としか言いようがないのだが、誰もが思いもよらない脳の場所と場所とが、働きと働きとが結びつき、新たな生命の関係性を作り直して新たに立ち上がってこようとする場合がある。GOMAさんの場合は、絵を描くという行為だった」

これは、知人でもある医師の稲葉俊郎氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科 助教)がブログやフェイスブックに投稿した文章だ。

記憶に感情がない」「誰かと自分が入れ替わったような」「社会からの疎外感」「常に葛藤」、番組内でGOMAはそういことを語っていた。そんなGOMAは番組の中で、映画「レインマン」の監修も務めたサヴァン症候群の世界的権威の精神科医、ダロルド・トレッファート博士を訪ね、「後天性サヴァン症候群」と診断される。新しく芽生えた才能が消えることはない。腕を磨けば磨くほど、消えるのではなく、むしろ進歩してゆく。そういう内容の言葉を、医師は告げていた。

 

番組では奈良県の天川村でのシーンもあった。ここでまた私は身を乗り出した。この番組を観る2週間前に、私はこの神社の節分の神事に参加していた。そして、このときお会いしていた宮司さんが現れ、天川村に残る「再生のエネルギー、人を癒す力をもっている火の鳥」の伝説についてGOMAさんに語っていたからだ。天河神社にある特別な(としか言いようのない)「気」を私は体感してきたばかりだった。

こうなると人は勝手に、この人と縁があるような気持ちになるものだ。「きっといつかこの人と会うことになる」それは根拠のない直感であり妄想だった。それからしばらくは、録画したこの番組を繰り返し見て、すごい番組を観たと、会う人ごとに言わずにはいられなかった。

撮影/森清