研究不正の再発を防止できない日本
2019年6月18日、イギリスの学術雑誌『ネイチャー』が、日本で発生した「研究不正」の問題を改めて厳しく非難した(“What universities can learn from one of science’s frauds”)。
日本発の研究不正といえば、真っ先に“STAP細胞”問題が思い浮かぶが、この記事が取り上げたのは、それとはまた別の事例だ。
1996年から2013年にかけて、元弘前大学医学部教授の佐藤能啓氏(故人)が盗用、データの改ざん、不適切な共著者の表示といった研究不正により、多数の研究論文を撤回した問題だ。佐藤氏の論文は骨粗鬆症予防における診療ガイドラインの根拠にもなっていたため、影響が大きく、波紋を広げた(佐藤氏は2017年に死亡している)。
今回の『ネイチャー』の記事は、個人を糾弾することを目的としたものではない。むしろ、研究不正に対する日本の調査体制の不備を明らかにするのが主旨だ。日本の大学は、「不正行為の調査が不十分かつ不透明」「調査委員会に外部メンバーがおらず信頼できない」等の構造的な問題を抱えており、再発防止につながらないことを指摘している。
創刊150周年を迎える老舗雑誌
その『ネイチャー』は今年11月、創刊150周年を迎える。
『ネイチャー』は世界で最も有力な学術誌のひとつとして広く知られており、その時々の重要な科学論文を掲載するだけでなく、「科学を取り巻く社会的な話題」、たとえばいま挙げたような〈研究不正〉や、〈科学政策・イノベーション力の分析〉といったテーマを継続して取り上げてきた。
それはいったい、どうしてなのか?
筆者は、自宅の近所にある洋書専門の古本屋で、100年前に刊行されたある雑誌を入手したことをきっかけに、ふと「古い科学雑誌には何が書いてあったのか」という疑問を抱いた。以来、『ネイチャー』が創刊された150年前の世相にどっぷり浸かり、このたび『150年前の科学誌「NATURE」には何が書かれていたのか』という本にまとめた。

明治初期の日本を大特集していた
実際に創刊当時の『ネイチャー』を読んでみて驚いたのは、学術専門誌という現在のイメージ以上に、科学と社会の関係性を重視していたことだ。
まだ「scientist(科学者)」という言葉がなく、自らを「men of science」とよんだ時代──。
彼らは、一般大衆の教養を高めることを第一目的とし、第一のメイン読者を「一般大衆」(General Public)と定めていた(現在はさすがにこの点は異なり、専門家を第一の読者としている)。
そのため、当時の『ネイチャー』が扱うテーマは、現在の私たちが想像する以上に幅広かった。
その中に含まれていたのが、日本を特集した記事である。