2019.08.01
# 井上尚弥 # ボクシング # 井上真吾

井上尚弥の父が語る「家族だからこそできること」とは?

井上真吾氏特別インタビュー その②
井上 真吾

――堤選手のほうは、けっこう通用したと思った?

真:通用したとまで思ったかどうかはわからないですけど、けっこうパンチが当たったな、とは思ったでしょう。でも、その時でも、やはり尚の方が、雑になって力んではいても上は取っていたわけで。

向こうとしては、「思いのほか自分のパンチも当たったな」、くらいじゃないでしょうか。確かに普段よりはパンチをもらってたんで。

――その堤選手との1回目のスパーの後、今度は石田選手とのスパーの時、ムカついたというのは、「俺の言うことを聞いてないじゃないか!」という気持ちだったのでしょうか。

真:そうです。堤選手との時から、尚がムキっているのがひっかかってたんですが、石田選手との時には、その悪いところがモロに出た。

でも、スパー中のインターバルでは修正は難しいんですよ。メディアの方もいらっしゃるし。だからインターバルではもう黙ってしまって。自分の中では最悪の内容だったので、スパーが終わった途端、いの一番でパーンと帰っちゃった。

――ノーコメントで帰っちゃった?

真:帰っちゃった。「今まで積み重ねた練習もみ消しにして、なに力任せに行ってんだー!」って(笑い)。

「仕事はちゃんとやる」の心意気

――何が問題かを、一瞬で見抜かれるのですね。

真:だって親子ですし、ちっちゃいときから自分が教えてきているわけじゃないですか、だからわかりますよ。それに、そんだけのことをやってきてるという自負があるんで。

これ、わかんなかったら、自分、トータルで失格だと思います。

だから自分だけにしかわかんなかったかもしれないけど、でも、それがすべてだったのかなと。

1から全部、自分で育ててきたという自負はあるので。こだわりもある。でも、そこまで見てくれているトレーナーが、はたしてどれくらいいるのかなって、ときどき自分も思います。そこまでやってくれる人がいたら、みんな、そこそこやれると思うんです。

――親子とかいう関係性がなくても?

真:ええ、やれると思います。

ただ自分は、性格もあるのでしょう、仕事でも何でも自分でやれることは、とことんやりたい。中途半端に流すことはできない。いま自分がやっている仕事でも、もう縮小はしましたけど、それでも練習の空いた時間には一生懸命やってるし、子どもっていうのは、そういうところを見てるんで。

――講談社現代新書のご著書でも、最後の校正のときに、「ボクシングは仕事、仕事はちゃんとやる」と書き足してこられましたものね。あれには感服しました。

どこまでいってもトレーナーは必要

――ところで、尚弥さんは、今ではPFP(パウンド・フォー・パウンド)で2位にランクする海外のメディアもあるように、すでにボクサーとして、これまでの日本人ボクサーにはない高みに達していらっしゃいます。そうすると、トレーナーとしては、「もう教えることはなくなった」、とはならないのでしょうか?

真:たしかに尚はだいぶ意識が高くなって、ミスは少なくなっています。なので、自分が言うことも少なくなってきている、という面は確かにあります。でも、相手が頑張ったりすると、また悪い癖が顔を出すことがあるから、そのときには、「そこ、気をつけようね」と言います。

ただ、言う回数が少なくなってきたということは、もちろんあります。これまでやってきたことが、ちゃんと身についてきて、本人も、そこを意識してやってるんで。