漫画家で小説家の折原みとさんは、20年ごしの夢を叶えてリキという愛犬と暮らしていた。犬は人間の数倍のスピードで生きる。どうしても、別れは人間より早くやってくることが多い。エッセイ『おひとりさま、犬をかう。』には、出会う前の話から別れのとき、そしてそのあとのことも率直に綴られた一冊だ。

前回は愛犬と「幸せなさよなら」を迎えた10日間のことを抜粋掲載した。今回は大切なものを失くしてからのことをお伝えする。

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傷ついた言葉、嬉しかった言葉

リキが亡くなった時には、たくさんの方から慰めや励ましの言葉をいただいた。
どれもが私のことを思って言ってくださるありがたいものであったが、その中でも、特に嬉しかった言葉と、ちょっとだけ傷ついた言葉がある。

大切な相棒を失くして悲しんでいる人に、どんな言葉をかけたらいいのか。かける側の立場としては悩む所だと思う。
御参考までに、私の経験からいくつか心に残った言葉を書いてみたい。
 
嬉しかった言葉は後にして、まずはちょっと傷ついた言葉。
どうしてもっと早く病気に気付かなかったの?
どうして癌になんかなったのかしら。ドッグフードが悪かったのかしらね?

相手の方に悪気はないのは重重承知の上だけど、正直言って、こういう言葉はヘコみます。
以前、漫画の取材で、難病でお子さんを亡くしたお母さんのお話を伺った時にも、同じようなことをおっしゃっていた。
 
我が子が重い病気だとわかった時、お母さんは、何よりも自分を責めるものだという。子供の病気は、何か自分に原因があったのではないか。何故もっと早く病気に気付いてやれなかったのか。
 
私の場合も同じだった。
 
他人に言われるまでもなく、自分が一番、責任や後悔を感じていたのだ。
どうしてもっと早く気付いてやれなかったんだろう?
もっと早く病院に連れて行っていれば、もう少し長生きできたんじゃないだろうか?

リキと最後のお正月。おかしいと気づいたのはクリスマスのとき。そこからわずか10日間で天国に旅立ってしまった 写真提供/折原みと

救われた獣医さんの言葉

だけど、そんな私の救いになったのは、獣医さんの言葉だった。
犬の癌は人間の何倍ものスピードで進行します。リキちゃんの癌は2~3ヵ月前に出来たものかもしれませんが、肝臓癌は末期にならないと自覚症状が出ないので、たまたまケガをしたりしてレントゲンでも撮らない限り、早期発見をすることは無理だったでしょう。飼い主さんの責任じゃありませんよ
 
癌の告知と余命宣告を受けた病院では、先生がそう言ってくださった。

犬は野生の本能が残っているから、ギリギリまで具合が悪いことを隠そうとする。だから、ハッキリ具合が悪くなってから病院に連れてくると、手の施しようがなくてそのまま死んでしまうことが多いんです。リキちゃんは、元気なうちに飼い主さんが異常に気付いて検査を受けたから、癌だということがわかったんです。老犬の場合は特に、突然具合が悪くなって死んでしまって、老衰ですませてしまうことが多いんですよ」

そう言ってくださったのは、かかりつけのリッキー先生だった。

「いつもとちょっと違うな……というくらいの異常は、医者にだってわからない。それに気付けたのは、ずっと一緒にいる飼い主さんだからこそなんです

そんな先生の言葉が、どれ程私の心を救ってくれたことだろう。

人間でも犬でも、「我が子」に何かあった時、一番責任を感じるのは親(飼い主)なのだ。

だから、決して責めるようなことは言わないでほしい

気休めでも、「あなたに責任はない」と言ってもらえることで、励まされ、前向きになることができるのだから。