2019.08.01
# 日本経済

増税は増税でも、日本政府はなぜ「消費増税」を選択したのか

「格差是正」より「国際競争」重視か

税制に反映される国家観

税制にはある種の「国家観」が反映される。例えば、キャピタルゲイン課税や有価証券取引税が高率な場合、極論すれば、国(政府与党)は株式投資を「博打」みたいなものだとみなしているということになろう。株式投資は資本主義の根幹をなす制度だと思うが、国はそれに対して否定的であるということだ。

そこで、株式譲渡益課税をみると、日本は申告分離課税で一律20%であるが、米国はキャピタルゲインの金額によって、0、15、20%の3段階の累進課税、イギリスは同じく10、20%の累進課税となっている。一方、ドイツは分離課税の場合は一律26.375%、フランスの場合は30%となっている(『図説 日本の税制』による)。

株式譲渡益課税の税率をみる限り、日本は、英米のアングロサクソン諸国ほどではないが、仏独の大陸欧州諸国に比べれば、自由主義的な経済システムについての理解は比較的あるということになるだろう。

一方、家計の金融資産残高に占める株式等のウェートをみると、日本は10.9%、米国は36.2%、イギリスは7%(ただし、保険・年金のウェートが60%と米国の約2倍のシェアであり、間接保有比率を加味すると米国並みの保有比率になると推測される)、ユーロ圏は19.2%となっている。

前述のように、日本の税制が株式投資に著しく不利という訳ではない。むしろ、「貯蓄から投資へ」というキャッチフレーズの下、NISAなど、将来に向けた家計、及び個人の資産運用のための制度整備を進めているといってもよい。

〔PHOTO〕gettyimages

ただ、残念なことに、日本の株価は基本的には90年代初頭のバブル崩壊以降、30年弱にわたり低位で一進一退を繰り返しており、一般家計の資産形成には不向きな状況が続いている。これは、ほとんどの国の株価指数が長期にわたり上昇トレンドを維持しており、何も考えずに株価指数のインデックスに投資していれば自然と資産が増える状況であることと対照的である。

そして、この日本の株価の低迷はそのままほとんどゼロ成長で推移してきた実体経済とリンクしている。日本の家計金融資産残高における株式のウェートの低さについては色々と細かな議論がなされているが、デフレによる株価上昇率の低さに起因しているところが大きいと思われる。

 

家計ばかりか、プロといわれるファンドマネージャーにも株式投資の成功体験が稀有なことが日本で株式投資が浸透しない大きな要因になっていると考えられる。その意味で、参院選後の安倍政権の経済政策での課題は、日本経済を成長路線に戻していくことである。

残念ながら10月からの消費増税はほぼ規定路線になってしまったが、それを打ち消すような大規模な財政出動を現状の金融緩和を持続させたままデフレ脱却まで続けることができるか否かが重要になってくるのではなかろうか。

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