『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』の刊行を記念しておこなわれた、レンタルなんもしない人さんと『居るのはつらいよ』著者・東畑開人さんの特別対談!
「レンタルなんもしない人は『反社会的な人物』である」という話から始まった前編に続き、「無名の34年はつらかった」「死ぬか、これをやるか、だった」と言うレンタルさんの深淵に迫る後編。気になる「今後」については……?(青山ブックセンターにて6月16日収録)
「34年間、ずっと無名だったんです」
レンタル:少しネタバレになってしまいますが、『居るのはつらいよ』では、居るのをつらくしている犯人に「会計」を挙げていましたよね。
このトークショーの場は、まさにそれが凝縮されています。皆さん、お金を払ってここに来ているので、1500円に見合うものを提供しないといけないわけです。
先ほど東畑さんは「怯えている」とおっしゃっていましたが、また会計にやられている最中だと。
東畑:会計にやられています。レンタルさんは会計から抜けています?
レンタル:抜けちゃっています。1500円払って、ぼくが「なんもしない」ことを、アートとしてみなしてくれないかなと。ぼくも怖いので、喋っちゃいますけどね。でも、なにも喋らないと、ツイッターでクレームの嵐がきて、そうするとまたバズってエンタメ化する。
東畑:すごいねぇ。やはり反社会的人物だ。
レンタル:喋らずにマイクを持っているだけでも、そわそわしたり微妙な変化がある。それを観察してもらうのもひとつのショーなんじゃないか。

東畑:『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』を宣伝するとき、編集さんは「フォロワー数が○○万人!」とか「いまAmazonで〇位!」とツイートしまくっていますけど、それって完全に会計の論理ですよね。
レンタル:はい。
東畑:ぼくも本が出てから、Amazonの順位にやられました。順位が上がると自分まで良くなった気がして、下がると「俺はダメだ」と落ち込む(笑)。バカですよね。でも、それはまさに会計のシステムを内面化しているということなのだと思うんです。
レンタル:そうやって一喜一憂することは、ぼくもよくあります。でも本を出したのも、「なんもしない」依頼の一つだと捉えていて、『レンタルなんもしない人のなんもしなかった話』はぼくのツイートを編集さんがまとめてくれただけ、『〈レンタルなんもしない人〉というサービスを始めます。』もライターさんが書いてくれた。面白くなくても、ぼくのせいじゃない。この本の責任を負わなくて済んでいます。
東畑:そういうことか。ネタ化しておくと安全なんですね。つまり、「生き延びるためのアート」なのだと。ガチで生きていると、行き詰まったときにつらい。だから、アートをしている気持ちで、もし失敗しても「今日もひとつアートを見せられた」と思う。
でも、そこには観客がいないといけませんよね。もし、「レンタルなんもしない人」というネタをはじめて、全然バズりもせず、フォロワーも増えなかったら、やっていたと思いますか?
レンタル:早々に切り上げていたと思います。この活動は34歳で始めたのですが、当時はフォロワーが300人くらいでした。ぼくは34年間、ずっと無名だったんです。
自分ではけっこう自己評価が高くて、自分のことを面白いと思っていました。こんなに面白い自分が、フォロワー300人なのはおかしい。本屋にいっても、こんなにいっぱい本があるのに、なんで自分の本がないのか。それがストレスで、ずっと病んでいたんです。
東畑:バカなんじゃないか(笑)