「ごめん。靴、脱いでいい?」

そしていよいよ、義足歩行のお披露目へとプログラムは進む。

ランニングスタジアムのトラックを歩くのは、前年11月の動画撮影以来のことだ。その間ずっと義足の素足でフローリングの床を歩いていたせいか、久しぶりにコンバースのスニーカーで踏みしめるトラックの感触に、私は大きなとまどいを覚えた。

「ぜんぜん違う……」

思わず声を漏らしそうになる。
トラックのスタート地点で、北村が私の肩から手を離した。さあ歩くぞと思ったのだが、足が出ない。何度か足を振り出そうとするが、摩擦が大きく感じられ、やはり足が出ない。スマホを掲げて待ちかまえる人たちも手を下ろし、心配そうに様子を伺いはじめた。

ごめん。靴、脱いでいい?

歩くことが最優先だ。私はむき出しの足部で地面に立った。
これなら、なんとか歩けそうな感じがした。

靴を脱いで地面に立つ 撮影/森清

ゆっくりと左足を振り出す。
あ、だいじょうぶだ。少しずつ前に進んだ。

すごい!

女性の声が聞こえる。倒れないことで精いっぱいの私に投げかけられたその言葉が、とてもやさしく響いた。
3メートルほど歩いたところで、体力の限界がきてしまった。

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もう一歩たりとも動けない。「あ、ダメだ!」と声をあげて前に倒れると、北村に身体を預けた。トラックに腰を下ろすと拍手が起こったが、3メートルしか歩けないことが不本意だった。

休憩の後は記念撮影だ。参加者全員に、私やプロジェクトメンバーといっしょの写真を撮影してもらった。およそ30分の撮影タイムとなったが、じつは撮影のために直立しているだけでもけっこうな運動量なのである。これだけの長時間、直立姿勢をとり続けるのもはじめて。最後の撮影が終わって腰をおろす。30分後に、同じ練習発表会がもう1回控えていることが信じられなかった。

撮影/森清