JR東海は2017年の環境影響評価事後調査報告書において、導水路トンネルで毎秒1.3トンを常時大井川に戻し、毎秒0.7トンについては必要に応じて戻すと記した。「全量戻し」を求めている静岡県はこれを不服とし、「南アルプス自然環境有識者会議」「大井川利水関係協議会」を設置。2018年9月に「大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する意見・質問書」をJR東海へ提出。JR東海はここで「湧水全量を大井川に戻す」と回答した。

しかし、静岡県は「湧水全量を戻す具体的な方法」と「南アルプスの生態系環境保全の方法」について、JR東海にさらなる回答を求めている。JR東海から納得できる回答がなければ静岡県区間の着工を認めない考えだ。
国が許可した中央新幹線の着工を認めない静岡県。その根拠は「河川法」だ。河川法は利水や環境変化に関わる工作物について、河川管理者の許可が必要と定めている。そして大井川上流の河川管理者は静岡県なのである。
こうして、これまでのJR東海と静岡県の対話はまったくと言っていいほど噛み合っていなかった。
JR東海としては十分な説明をしており、静岡県の質問にもすべて回答したという認識のようだ。しかし静岡県は回答に納得しない。「湧水全量を戻す具体的な方法」「湧水全量を戻す設備の性能が毎秒3トンという科学的根拠」「生態系把握手法の科学的根拠」などを求めた。
今年6月6日に「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」提出した静岡県。それに対してJR東海は7月12日に意見書に対する「回答案」を提出した。
膨大な意見項目に対して、ひとつひとつ丁寧に記している。それが約1ヵ月という早さで実施された。誠意ある対応と言えるし、1日も早く着工したいというJR東海の意向が透けて見える。この一連のやりとりは静岡県の公式サイトで閲覧できる。
この回答案について、静岡県は静岡県中央新幹線環境保全連絡会議の「地質構造・水資源専門部会委員からの質問」「生物多様性部会委員からの質問」、さらに「大井川利水関係協議会からの質問」を提出した。ここでようやく、静岡県がJR東海に対し、どんな回答を望んでいるか明確になったのである。