たとえば湧水ポンプ問題については、設置数だけではなく、JR東海が取得した土地のどこに設置されるか、トンネル内に設置できるかを説明してほしかったようだ。他の項目も、「○○について具体的に」とか「この項目は△△研究所の助言を受けたほうがいい」など、質問が明確になっており、解決策への提案もある。抽象的だった「中間意見書」よりもかなり分かりやすい。
ようやく、両者の対話の歯車が噛み合いつつあるようだ。
国交省はもっと積極的に動くべき
トンネル工事は自然を相手にするだけに、予測不可能な事態はある。それをすべて、科学的に納得させよ、といっても無理がある。着工しなければ分からないことを、着工前に示せという静岡県側の態度は、過度な要求だ。
このように思う人が多いかもしれない。しかし、現在のトンネル工事は、かなりところまで正確に科学的な予測ができることを筆者は示しておきたい。
たとえば、九州新幹線の博多〜新鳥栖間の筑紫トンネルが参考になるだろう。このトンネルの長さは約12km。福岡県と佐賀県にまたがる背振山(せふりさん)系を貫く。
背振山周辺は福岡都市圏の水源となっているため、水資源の周辺環境を維持しつつ建設された。事前調査による湧水量予測はトンネル完成後の実測値にかなり近く、また予想外の事態にもきちんと対処している。その内容は、土木学会のウェブサイトで公開されている、鉄道・運輸機構の担当者による論文「周辺水環境を考慮したトンネルの設計施工 -九州新幹線,筑紫トンネル-」に詳しい(http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00984/2009/2009-0029.pdf)。
それによれば、湧水については事前の調査予測と結果の誤差は小さかったようだ。トンネル掘削の影響で、トンネルと河川の交差部分にある井戸の枯渇が確認されたため、各家庭にタンクを設置し、飲料水を運搬給水している。河川の流量減少にともなう農業用水の枯渇については応急対策として河口から上流までパイプラインを作りポンプで給水しているという。