中国の絶景・世界遺産「客家の土楼」を呑み込む時代の激動

失われゆく故郷と人々の思い
中村 治 プロフィール

消えゆく生命力

2019年春、10年ぶりにまた土楼へと向かった。

土楼の保存に関してはさらに二極化が進んでいた。政府による補助金や、土楼を出て財を成した国内外の資産家からの寄付などによって、多くの土楼で修復が進んでいた。

また、世界遺産に指定され多くの観光客が集まる土楼がある一方、修復の指定から外れ、有力な支援者を持たない土楼は更に荒廃が進んでいた。10年前に回った土楼の中には、すでに崩壊したものもいくつもあった。

村に戻った親族の多くは土楼の周りに近代的な住宅を建て、そこに住み始めたが、老人達の多くは住み慣れた土楼を離れる事はなかった。

眼が全く見えないのに、一人で土楼に暮らしているお婆さんもいた。長年住んできたので、眼が見えなくても料理まで一人で出来ると言っていた。その彼女の親族もまた近くのビルに住んでいたが、どんなに家族が説得しても彼女が土楼を離れる事はなかった。

 

老人たちは土楼での生活が一番だと言う。すでに亡くなってしまった人も多かったが、何人ものお爺さんお婆さんに再会した。

子供達の援助により、裕福になって農作業などをする必要の無くなった彼等の多くは、10年前よりむしろ若返って見えた。以前はニカッと笑うと数本しか歯が残っていないお爺さんお婆さんが少なくなかったが、10年が経ち経済的余裕が生まれた彼らの口には、綺麗な義歯が隙間なく並んでいた。

もちろん生活が改善するのは喜ばしいことだが、当時感じた湧き出るような生命力は、彼らから消え失せてしまったようだった。

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