2019.08.28
# 韓国

日本と韓国の「葛藤」はなぜ過激化したのか、すれ違いの構造を解く

両国の視点から考える
木宮 正史 プロフィール

日本の「現状変更」についての複雑な立場

韓国内では判決を日本政府に受け入れさせるように交渉するべきであり、日本政府や企業もそれに従うべきだという見方が強い。日本企業がその判決に従うのかどうかは企業自身の判断に委ねるべきだが、日本政府としては、やはり請求権協定における「完全かつ最終的に解決」という合意に反すると判断する。

したがって、韓国内の司法手続きがこのまま進むと、それに対する何らかの「対抗措置」に踏み切らざるを得なくなる。ただ、そうした日本企業の可視的な被害が生じる前に、日本政府は予防的とは言え「対抗措置」を採った格好である。

しかも、日本政府は、「対抗措置」であることを示唆しながらも、それを理由とすることは国際的な支持を得られないと考えたのだろう、表向きは重要な戦略物資や技術などが韓国を通して第三国(具体的には、北朝鮮や中国ということが念頭に置かれているのだろう)に違法に流出しているかもしれないという安全保障上の問題を、その現状変更の理由として掲げる。

しかし、日韓双方とも、この措置が「徴用工」判決への韓国政府の対応と無関係だと考えていないことも、紛れもない事実である。安倍晋三政権は、各省庁に、韓国に対する「対抗措置」リストの提示を求めていたとも聞く。

経産省のこの措置もリストの中に含まれており、安倍政権としては、これは「有効な手段」だとして、このタイミングで踏み切ったと考えるのが自然である。輸出管理強化などそれ自体は、現在のところ実効的な制裁措置ではないが、文在寅政権の対応如何では、制裁の現実化も見据えての措置だろう。

ところが、この措置による具体的な被害が顕在化していないにもかかわらず、韓国では「大騒動」を巻き起こしている。前述の通り、日本は韓国から「譲歩」を引き出そうとしていたと考えられるが、譲歩を引き出すどころか、むしろ対日強硬論で韓国を「団結」させる結果をもたらしている。

輸出管理強化が発表された直後は、保守野党を含めて文在寅政権の対日「無策」が批判されたが、その後の推移を見ると政権批判は対日批判に掻き消された格好である。この一連の「騒動」の原因となった「徴用工」判決の問題がどこかに吹っ飛んでしまい、「日本が脅しを加えて韓国を屈伏させようとしている」と受け止められている。

 

日本の「日韓関係『再定義』」のマズさ

さらに、単なる「便法」ではなく、本気で韓国を安全保障上の「問題国家」とするのであれば、それは日本の外交や安全保障にとって、従来の立場とは異なる相当に大きな転換である。

確かに、安倍政権は、「韓国とは市場経済と民主主義という基本的価値観を共有する」という表現を政府文書からわざわざ削除したり、日本外交における韓国の優先順位下げるような表現を使ったりして、日本の外交や安全保障における韓国の位置づけを再考する、換言すれば「日韓関係の『再定義』」とでも呼ぶべき政策指向を見せてきた。そして、日本外交の基本構想である「インド太平洋構想」の中でも、強調されているのは、米国、豪州、インドとの連携であり、韓国に関する言及はほとんどない。

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