遠藤氏から送られた「ロードマップ」

ゴールデンウイークが開けると、プロジェクトリーダーの遠藤氏からメンバー全員に「乙武プロジェクト ロードマップ」と題したメッセージが届いた。

「いままでに存在しない、未来の当たり前を作る」という文章から始まるそのメッセージには、各メンバーが果たすべきミッションが記されていた。私のところには「歩くことをあきらめかけている障害者に歩くという選択肢を提示し、社会的弱者に住みやすい社会を示す」とあった。なかなか上達しない歩行練習に心折れかけていたが、あらためてこのプロジェクトの原点に立ち戻ることで闘志がかき立てられた。

「ロードマップ」というタイトル通り、秋までのスケジュールも書かれていた。

5月~ 膝のスイッチをオフにした状態(膝の曲げ伸ばしを自力で行う状態)での練習
6~8月 片足で間をとる練習、膝の屈曲方法の体得、バッテリーを外して練習
9月3日 超福祉展で進捗を報告

超福祉展――あの会場でプロジェクトを初披露してから、もう半年が経とうとしていた。今年も、超福祉展での報告会がひとつの山場となることが、メンバー一同確認された。

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「え、これが義手……」

5月15日。
ついに「義手」が完成した。

私の身体の三重苦の一つである「腕がない」ことを克服するための練習が始まるのだ。わが家を訪れた義肢装具士の沖野氏が、キャリーケースから2本の義手を取り出した。その義手は、肩全体を覆うソケットからステンレス製のパイプが伸びただけの単純な構造で、幼少期にさんざん義手を使って物をつかんだりする練習をしてきた私にとっては、「え、これが義手……」と拍子抜けするほどシンプルなものだった。

「あくまでも試作品のようなものだと思ってください。安定した歩行のために、手でバランスを取るための義手なので。ちなみに、一本あたり約400グラムになります」

沖野氏によると、この義手は、パラ陸上400メートルの日本記録保持者・池田樹生選手をはじめ、多くのアスリートが使用しているものと同じタイプだという。池田選手の義足や義手も沖野氏が担当しているそうだ。

「池田選手は、右足は太ももまで、右腕は肘までしかありません。もともとは義足だけで走っていたのですが、3年前、もっと速く走るためには義手をつけたほうがいいと提案しました。義足と義手の相乗効果で記録を更新し続けていますが、乙武さんにもぜひ、義手の効果を体感してほしいと思います」

連載第9回で、佐藤圭太選手は私の「兄弟子」に当たると紹介したが、この池田選手も私の兄弟子ということになる。兄弟子を日本記録へと導いた義手に、私もあやかることができるだろうか。

ところが、この日の練習のことを私はほとんど覚えていない。というのも、義手を振り回しては両手をカチャカチャとぶつけ合ったり、フローリングの床をトントンと叩いてみたり、あまりに「義手をつけた」ことによる印象が強すぎて、そのあとの歩行練習のことが記憶に残っていないのだ。

このときの心情を文章にまとめて、私は「note」に公開した。

https://note.mu/h_ototake/n/na2be99715d5f

だが、こうした腕に対する感傷に浸る余裕など、翌週の練習ではすっかり失われることになる。