頭でわかっているのに、
身体が言うことを聞かない

5月22日。

義手の装着によってバランスを失ってから1週間。暗い気持ちでこの日の練習を迎えたが、それが驚くほど杞憂に終わった。何のことはない、平行棒の間でも外でも、私はすっかりバランスを取り戻し、義足をつける前と遜色ないくらいには歩けるようになったのだ。依然として右足の出は不十分だが、義手がついたことによる変化を、私の脳はようやくインプットしてくれたようだった。

だが、引き続き肩甲骨まわりの筋肉をはじめとする上半身の可動域を広げて行くことは課題のひとつだった。そこで、内田氏の提案でストレッチポールを購入することにした。

かまぼこ形の細長いストレッチポールに背骨を合わせるようにして、仰向けになった身体を乗せる。そのまま体重を預けると肩甲骨が広がっていく感じがする。1回5分、1日数回、執筆の合間や外出からの帰宅時などに、ストレッチポールに寝そべるようにした。

義手装着のピンチを脱したことで、私の課題は「右足をスムーズに出す」という一点に集約された。

「左の股関節が脱臼していますね」

MRI画像を撮影したのときの技師の言葉が思い出された。無意識のうちに左足への負担を避けてしまうせいで、左足に体重が乗り切らない。そうした状態のまま右足を出そうとしても、バランスを崩すだけ。頭でわかっているのに身体が思い通りに動かない。それがなんとも、もどかしかった。

ストレッチポールに寝そべり、ソファに手をかけて筋力トレーニングに励む。それに加えて、空き時間を見つけてはイメージトレーニングをするようにした。スッと出る左足に続いて、リズムよく繰り出される右足。左、右、左、右――頭の中に思い描く私は、二本足でリズムよく歩いていた。

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成長曲線が絶えず右上がりということはありえません。上昇期って、しばらく停滞期が続いたあとに、突然やってくるものなんです

練習中、内田氏は何度もこの話をしてくれた。私にモチベーションを維持してほしいと考えていることが痛いほど伝わってきた。だが、若き理学療法士の励ましも虚しく、私の右足は一向にスムーズに出てくる気配がなかった。

ところが、梅雨入りして2週間ほどが過ぎたある日、転機が訪れた。

(構成/園田菜々)

次回は9月8日公開予定です

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