「それだ!」

「では、起き上がってください」

内田氏は上半身のストレッチに取りかかる。

「無駄な力みが取れてきてますね」

そう言って私の右腕を上に掲げると、内田氏はこんなことを話しはじめた。

「私たち理学療法士の間で『仙人』と呼んでいる理学療法界の大先輩が、乙武さんの歩行を動画でご覧になったらしく、『みぞおちで歩けばいいんだ』と言っていたそうなんです。足の筋肉は胸からつながっているので、一理あ……」

内田氏が話し終わらないうちに、私は「それだ!」と叫んでいた。

頭の中で、みぞおちを意識しながら歩いている自分の姿が鮮明に浮かんだのだ。これまでは太ももの力で無理やり右足を振り出そうとするイメージだったが、みぞおちのあたりにグッと力を込める意識を持つと、右足が付け根から前に引っ張られ、そこから先もスムーズに前へ出そうな気がした。

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足そのものをどう動かすか、ではない

ソウルの空港で山積みにして売られている、高麗人参のパッケージが頭に浮かんだ。太い人参から細いひげ根が伸びている、あの人参の絵だ。これまでは足そのものをどう動かすかしか考えていなかった。しかし「みぞおちで歩く」と言う言葉を聞いて、高麗人参の形状を思い浮かべると、あの太い胴体部分に力を入れれば、高麗人参のひげ根、つまり両足が自然に動くのではないかと思えたのだ。

みぞおちに力を入れて、左足を出す。
みぞおちに力を入れて、右足を出す。

うん、はやく試してみたい――。

ストレッチが終わり、義足と義手をつけて平行棒の間に立った。目をつぶり、身体の真ん中のみぞおちに意識を集中する。

撮影/森清

そっと、足を振り出した。左足はすんなりと前に出た。いよいよ、問題の右足だ。みぞおちに力を入れて、右足を出す。

「あれっ?」

思わず大きな声を出してしまった。

力一杯ふんばってもなかなか前に出なかった右足が、なんと左足よりも少し前に出ている。そのまま、みぞおちに力を入れて、左足を出す。そして、右足、左足、右足――。これまでにないリズムで、気がつくと一気に平行棒の端から端までを歩ききっていた。

「いい感じです!」

内田氏も大きな声をあげる。

「みぞおちを意識してみたんだ」

私はそう答えた。