最新テクノロジーと気合い
7月16日。
靴の軽量化に成功してからというもの、歩行の質が格段によくなった。以前よりも理想的なフォームで歩けるようになり、力任せに右足を振り出すことも少なくなった。そのおかげで、疲労もずいぶんと軽減されるようになった。とはいえ、何本も歩行練習を重ね、少しずつ疲労が蓄積してくると、やはり以前からの課題だった右足が出にくくなり、床に突っかかってしまう。10メートルを超えて、長い距離を歩けるようになるためには、疲れが溜まった状態でも右足が突っかからないようにしなければならない。
私は疲労で重たくなった身体で床にもたれかかりながら、どうすれば右足が突っかからないようにできるか、必死にその方策を考えていた。なかなかいいアイディアが思い浮かばなかったので、たった一つだけ頭の中に浮かんだキーワードに頼って、歩いてみることにした。
まずは左足を振り出す。広がりすぎないように意識し、センターラインに寄せて着地。
その勢いのまま、右足を振り出す。
そして、左足、右足。リズムが出てきたが、やはり疲れが出てきた。右足が重たい。上がらなくなってくる。さあ、ここだ。ここで試すんだ。
「フンッ」
私はここからターボエンジンを起動させたように、勢いよく前進を始めた。そろそろヘタるころだと予測して、かなり私の近くまで来ていた北村が慌てて後ずさる。あっという間に部屋の端まで歩ききった。
「すばらしい歩きですね!」
内田氏が驚きの声を上げる。北村に支えられながら、私はゆっくりと床に腰を下ろした。
この日はメディアの取材が入っていたのだが、目を丸くしたインタビュアーが私に聞いた。
「疲れてきた終盤、どうやって巻き返したのですか?」
私はいたずらっぽい笑みを浮かべて、こう答えた。
「気合いです」
「えっ」
「いや、だから、気合いです。もう、それしかないと思って」
最先端のテクノロジーを用いたプロジェクトだということは理解している。だが、それでも最後に頼るべきは「気合い」。昭和の人間は、どうしても根性論に走ってしまうのだ。
それでも、プロジェクトリーダーの遠藤氏は最後の歩行をほめてくれた。
「いままででいちばんダイナミックできれいな歩行でしたよ」
7月20日。
長い、長い梅雨が明けた。今日から夏休みという子どもも多いだろう。いよいよ蝉の声が聞こえてきそうだ。
土曜日だったが午後に北村が来てくれ、一時間ほど自主トレに励む。かなり質の高い歩行ができた。その様子をプロジェクトメンバー全員に動画で送る。遠藤氏から「グー」という絵文字が送られてきた。
超福祉展まで、残り50日を切った。あとは、とにかく数をこなすしかない。
構成/園田菜々
次回は9月22日公開予定です
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