(株)空調服の反論
(株)空調服はサンエスの訴えを真っ向から否定。「商品の開発から企画・販売まで全て(株)空調服が行い、サンエスは弊社の指示に従って受託製造していただけである」というのが主な反論内容だった。準備書面には、1999年には試作品「A号機」が作られ、その後、写真付の開発年表でB~G号機の試作品を作ったことが提示されている。
また、量産開始前の空調服に関する特許数は、(株)空調服側が35件に対して、サンエス側は0件。新聞やテレビ等のメディアに取り上げられた合計数も、(株)空調服側が74件に対して、サンエス側は1件と、開発から販促まで自分達で行った証拠が記されていた。
一番衝撃的だったのは、準備書面の最後のほうに記されていた、サンエスの「証拠の偽造が強く疑われる点」の項目だった。サンエスは訴状に「(株)空調服は一販売店に過ぎない」という証拠として、2010年の日付の納品書を添付していた。しかし、納品書に記されている住所は(株)空調服の『現住所』となっており、2010年当時の住所ではなかったのである。
つまり、現住所に引っ越したのが2015年という事実を考えれば、この2010年当時で(株)空調服の新しい『現住所』が分かるはずもなく、それが伝票に記されているということは、証拠として提出した伝票が、新しく作られた偽造の伝票と疑われても致し方ないということになってしまう。
もうひとつ驚いたのは、証拠写真の加工である。サンエスが訴状につけた自社の空調服の写真は、襟元がグレーにマスキングされているものだった。
私も訴状を見た際に「証拠写真なのに、なぜ、マスキングする必要があるのか」と違和感を覚えていたが、実は襟元には(株)空調服の特許、及びノウハウを使用した商品を示すタグがついていたのである。もし、サンエスが自社商品として訴えるのならば、マスキングした空調服の加工写真をわざわざ訴状として提出する必要はないはずである。
この二つの件に関しては、サンエスは次の原告準備書面で反論している。偽造伝票の疑いに関しては、伝票印刷を任せた担当者のミスによるもの。また、タグのマスキングに関しては、特に不自然なことではなく、タグがつけられていないことを否定しているものではないと弁解した。
判決が及ぼす影響
なぜ、サンエスは、このような訴状を出す必要があったのか。訴えられた側が苦し紛れに出した回答であれば、まだ理解することができる。しかし、今回は訴えたほうが自ら墓穴を掘るような訴状を出す理由が分からなかった。しかし、裁判記録を読み込んで整理してみると、いろいろ見えてくるものがあった。
仮に、(株)空調服が空調服を開発して、それをサンエスに作らせていたとしよう。最初は売れないと思って引き受けた委託仕事でも、次第に売れてくるとサンエスが「自社で作ったほうが儲かる」と思ってもおかしくない。次第にその思いが強くなり「元祖はうちの会社だ!」と訴えを起こしたとすれば、動機にも合点がいく。