ゲーム理論が明かす嘘の損
確かに、1回限りの取引で嘘をつくと得をするように思えることが多い。
米ソ冷戦時代に「どちらが先に核ミサイルのボタンを押すべきか」を研究するために始まったゲーム理論の「囚人のジレンマ」というケーススタディは、共犯者を裏切った方が良いのか黙秘を続けたほうが良いのかということがテーマだが、今のところ正解というものは無い。
そしてその発展研究として、絶海の孤島を想定し、
1) いつも嘘をつく
2) いつも正直
3) 正直だが、一度裏切られた相手とは取引しない
という3種理のロボットの動きをシュミレーションすると、悲しいことに2)の正直ロボットはあっという間に姿を消す。
大概は3)の一度裏切った相手とは取引しないという戦略が有効だが、時によっては1)のいつも嘘をつくロボットが優勢になることもある。
とても悲しいことだが、1回だけの取引を繰り返している限り「嘘をつく」ことがかなり有利なのだ。
しかし、近年の研究で「長期にわたる取引」では、「嘘をつくことが不利」であることが分かってきた。
実際の世の中では、コミュニティの中で長年にわたって繰り返し取引が行われ、誰かに嘘をついたらそのコミュニティ全体に「あいつは嘘つきだ」という情報が知れ渡り、取引そのものからはじき出される。
「嘘つき者情報」の共有によって「正直者コミュニティ」を守るのだ。
試しに、前述のロボットに実際の社会条件を加味した実験を行わせたところ、ものの見事に嘘つきロボットが排除された。
長年の取引の中では「嘘」は決して得ではないということだ。
長い付き合いが重視されるのにはわけがある
大型の詐欺というのは長い時間をかけて行われるが、それでも10年、20年の間には本性が出てくる。
よく「10年付き合わないと人間性はわからない」と言われるが、その長年かけて築いた信頼も、たった1つの「嘘」でもろくも崩れ去る。
やはり「嘘」というものは、合理的(長期的)に考えて割に合わないものだといえよう。