対策に5~10年はかかる
イノシシ拡散を止めるため、自治体も手をこまねいているわけではない。感染地域を取り囲むように、経口ワクチンを混ぜたエサを撒く「ワクチンベルト」を構築しようとしている。しかし、それも焼け石に水なのだ。
「ウイルスを持ったイノシシがこれだけ広がってると、どうしようもない。一刻も早く豚へのワクチン接種を認めてほしい」(前出・兼松氏)
人間のインフルエンザ同様、豚コレラも事前にワクチンを打っておけば、感染率を大幅に下げることができる。
では、なぜ政府は豚へのワクチン接種をためらうのか。
「一度ワクチン接種をすると、日本全体が豚コレラの『清浄国』から『非清浄国』となり、輸出入に影響が出ると政府が考えているのです。
清浄国に戻るには、ワクチンを接種した豚をすべて処分し、その後3ヵ月、豚コレラの発生がないなどの複数の条件をクリアしなければいけません」(農水省担当記者)
'80年代まで、日本では全国で豚コレラが蔓延していた。しかし、地道なワクチン接種により、'92年に熊本県で発生したのを最後に豚コレラは確認されなくなった。最後のワクチン接種は'06年。以降、日本は豚コレラの清浄国だった。
「昨年末以降、各自治体や養豚業者から、ワクチン接種の要望が出ているにも拘わらず、農水省は頑なに認めようとしない。来年のオリンピックを、『非清浄国』の状態で迎えたくないという官邸の意向が働いていると見られています」(前出・記者)
9月17日、埼玉での豚コレラ拡大を受け、江藤拓・新農水相は「(ワクチン投与は)私の責任で決断したい」と発言したが、いまだワクチン接種に踏み切ってはいない(9月17日現在)。
前出・迫田氏が語る。
「現在の日本の豚コレラ問題は、おそらく世界で一番厳しい状況に置かれています。5~10年といった期間をかけて、対策に取り組まなければ解決できないでしょう」
1頭でも感染したら、すべてが終わる――。今、群馬、千葉などの養豚業者たちは、恐怖のドン底に叩き落されている。
発売中の『週刊現代』ではこのほかにも、殺処分をした岐阜県担当者の話などを交えながら、「豚コレラ阻止」の最前線について特集している。
「週刊現代」2019年9月28日号より
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