アングロサクソン各国が共有
同年、米国からオーストラリアに和牛が輸出され、オーストラリア和牛協会が設立された。そして翌1991年には、和牛の精液と受精卵が持ち込まれ、オーストラリア国内で和牛の生産が可能となったのだという。
協会以外の動きも活発になった。現在オーストラリア最大の和牛農場を営む「ブラックモア」は、1993年に和牛の胚を米国から取り寄せて事業を開始。2018年には、8000エーカー規模の5つの農場で3800匹の和牛を育てるに至っている。
カナダでは1991年になってカナダ和牛協会(Canadian Wagyu Association)が設立され、和牛の生産が始まった。また、イギリスでは2011年に「ハイランド和牛社(Highland Wagyu)」が設立され、ヨーロッパにおける和牛の覇権を握るべく活動を開始している。
「ニュージーランドこそ含まれていないが、機密情報を共有するアングロサクソン同盟、いわゆるファイブ・アイズ(5つの目)の構成国に和牛が共有された形だ。和牛もいまではれっきとした知的財産と認識されているし、機密情報のようなものだ」(前出・外事関係者)
かくして、いまやオーストラリア産の和牛が世界を席巻し、本家の日本は後塵を拝している有様だ。なぜこんなことがまかり通っているのか。前出の農林水産省関係者が語る。
「実は、産業技術やブランド品などと同様、食品も知的財産であるとして、保護のための実行力のある国際規制がかかったのが1995年だったからだ。
同年、世界貿易機関(WTO)が設立され、『知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)』が発効した。この協定によって「地理的表示(Geographical Indication)」の認定・保護が謳われ、ようやく『シャンパン』とか『神戸牛』といった産地名を含んだ特産物が知的財産として守られるようになった」
それ以前は、偽ブランド商品や特産物の名称侵害などが多々あったにもかかわらず、なかなか保護措置を講じることができなかったと言うのだ。
「知的財産に関しては、1970年に世界知的所有権機関(WIPO) が設立され、その保護に努めたが、権利行使についての定めがなかった。つまり、強制力がなかった」(前出・農林水産省関係者)